DARK HALF番外編   出会い






一瞬の出来事だった。

例えるなら、それは蒼い風。

それが傍らを通り過ぎた後、ルカの目の前に立ちふさがっていた男は声もなく倒れた。

「大丈夫だったか?」

ルカの目の前で剣を収めた蒼いマントを纏った男はそう尋ねてきた。

足元に倒れているのは無謀にもルカを捕まえて人買いに売ろうとしていたらしいゴロツキだ。

まだ幼さの残る中性的な容姿のルカを眺めながら、
こんなのの方が好みなヤツもいるとか笑っていたところに乱入してきた蒼い剣士に
あっさり成敗されたのだった。

「……あ、ありがとう」

自分で何とでも出来たのに余計な事を、とは思いながらもルカはそれは顔に出さずに礼を言った。
剣士は首を傾げながらそんなルカを見ている。

「こんな裏路地で一人で何をやってたんだ?…ああ、すまない。
 詮索するつもりはないが、どうやら武器も持ってないみたいだし…
 オレが来なかったら危ないとこだったんじゃないのか?」
「……僕は…」
「どんな格好をしてても、お前は女の子なんだから気を付けないといけないぞ」
「っ!?」

一発で性別を見抜かれてルカは驚いた。

子供が一人で生きるには女より男の方がまだ生きやすい。
だからルカはもう何年も男のフリをして生きてきた。
どちらだろうかと悩まれた事は何度もあるが、一発で見抜かれたのは初めての経験だったのだ。

「……ち、違う!僕は男だっ!」

剣士はそんなルカを安心させる様に微笑みかけた。

「そう偽る理由もわかるよ。オレも一人で生きてきたクチだったから。
 だからこそ少しは理解できるし気になったんだよ」

剣士は腰を落として目線を合わせながら、ルカの頭をくしゃくしゃっと撫でてきた。

「まともな仕事はあるのか?もし働き口がないならオレの故郷の方でよかったら紹介するぞ?
 ファールムゥグの辺りなんだが…。
 ああ、それよりもこの間寄った町の宿屋で働き手を探してたな…。
 そっちの方がウェルハーンを離れないですむからいいかな?」
「うるさい!僕を子供扱いするな!お前には関係ない!ほっといてくれ!!」

頭に置かれた手を払い、ルカは剣士を睨みながら怒鳴った。

「それに僕にはちゃんと主がいる!今だって主の為に動いているんだ!あの御方の命で…」

消さなくてはいけない人物を探しに行くんだ、
そう危うく口走りかけてルカは慌てて続く言葉を飲み込み、剣士の様子を伺った。

払い除けられた自分の手をちらっと見て、剣士は安心した様に笑顔を浮かべる。

「そうか」

ルカにはそんな剣士が無性にカンに障った。

「…何をそんなにヘラヘラ笑っている」
「ん?そうだなー。強いて一言で言えばよかったって思ったからだな」
「…何がよかったんだ?………そうか、お前は冷たくされるのが好きな変態だったのか」

剣士に冷めた視線を向けてルカは一歩身を引いた。

「違う違う。
 そうやって怒るとこを見るとその主人とやらはいい人みたいだなって安心したんだよ」
「……何故そうなる?」
「オレは自分の人を見る目を信じてるんでな。お前はいいヤツだ。
 だからお前が慕っている主人もきっといいヤツなんだろうって事さ」

ルカは理解できないモノを見る視線を剣士に向けて、首を振った。

「……変なのと関わってしまった」
「変なのとは失礼な!」
「変なのを変と言って何が悪い!」
「………アイツに比べたらオレは普通だ」

きっぱりと言い切られた剣士は少し切なそうに明後日の方向を見て、
ふと何かに気付いた様にルカに視線を戻した。

「あ。オレ、今人を捜してたんだった。
 えっと、白猫を連れた金髪の女性を見なかったか?年は十六。
 どこかしら高貴な雰囲気を纏った可憐な人なんだが。
 この町に着いて早々にはぐれてしまったんだよ」

少女の特徴を言う剣士の言葉の響きに含まれた微かな感情を無意識に感じたのか、
ルカは少しムッとした。

だから、心当たりはなかったし、たとえ心当たりがあったとしても教えてあげない、
とルカは考えて首を振った。

「悪いが知らない」
「そうか…」

溜め息を吐く剣士を見て、ルカは少し罪悪感を覚えた。

何故そう感じるのか、自分でもわからなかったが、剣士に何かしてあげたかった。

「………だけど、もし、そんな人を見かけたらお前に知らせてやってもいいぞ」
「そうか。ありがとうな」

ルカは剣士に笑いかけられて少し赤くなりながら視線を逸らした。

「………助けてもらった礼代わりだ」

内心を隠す様に殊更冷たく言うルカの頭を再度撫でながら剣士は苦笑した。

「お前、素直じゃないなぁ。それでもありがとうな。その気持ちが嬉しいよ。
 じゃあ俺はその人を捜さなければならないからもう行く。お前も仕事頑張れよ!」

走り去る剣士は角を曲がり見えなくなった。

「…………変なヤツだったな。あんな男初めてだ……」

ふとルカは自分の表情が弛んでいるのに気付いた。

「………駄目だ駄目だ!こんな事ではあの御方に呆れられてしまう。
 僕はこれからあの女の傍をうろつくルークと言う男を消す…。それを忘れてはいけないんだ」

そう呟き、ルカはふと剣士が向かった方を見た。

「そう言えば、名前、聞いてなかったな…。まぁいい。どうせ、もう二度と会う事もない…」

背を向け歩きだしたルカは、表情が消え、その瞳は氷の様な冷たさを帯び、
主に命じられるままに動く操り人形の様だった。



まだルカは気付いていない…。
あの剣士こそ消す為に捜しているルークである事を…。
あの剣士に対して仄かに抱いてしまった気持ちが招く事態を…。
この出会いが二人の人生を大きく変える転機だった事を…。








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