真田短編集


拾う少年





彼はひどく猫背で、その為かいつも下を向いて歩いていた。
「君さ、もう少し顔を上げたらどうだい?暗い奴だと思われるぜ?」
僕がそう言っても彼は薄く「えへへ」と笑うだけでそれを治す様子は無かった。
実際彼はあまり陽気な質では無かったのだが、僕達の学級中では人気が有った。
珍しい物を見つける天才だったのだ。
例えば、虹色に輝く見たこともない外国の硬貨。足みたいな物が付いている不可思議な蛇の脱け殻。
「どうして君はこんなに珍しい物をよく発見出来るのさ?」
こんな問いに彼は照れた様に頭を掻きながらこう答えた。
「僕は下を向いてる場合が他の人より多いから、自然とそういった物が見つけられるのかもしれないね」
それから暫らく、下を向いて歩く僕らだったが、彼の様に珍しい物を見つける事が出来た奴は一人も居らず、
恐らくあいつには何か不思議な力が有るに違いないと僕達は噂しあった。

ある日、級友の一人が通学中、胸を押さえて突然倒れた。元から心臓を患っている奴だった。

家に運ばれ、掛かり付けの医者が呼ばれたらしいのだが、どうも危ない状態らしい。 
一緒に登校していた奴からの情報を受け、学級の全員が不穏な緊張感で落ち着かない心持ちだった。
心なしか先生も不安気の様だ。
そんな中、彼が少し遅刻しながら表れた。
「一体何が有ったの?」
何時もと違う雰囲気に目を丸くする彼に、級長が状況を説明する。
「そぅか…あいつが……」
と、茫然と呟いた後、何か暫らく考え込むような顔をし…はたと彼は手をうった。
「もしかしたら、だけど…あいつは三丁目の駄菓子屋を過ぎた辺りで倒れたんじゃあないかい?」
「確かに、その通りだけど、なんで解ったのさ!?」
一緒に登校していたという奴が驚声を上げる。
「先刻そこでコレを拾ってさ」
そう言って彼は学生服のポケットから大事そうに何かを取り出した。
それは卵大の大きさの、赤色の微光を放つ球体だった。
「何なんだ、それは?」
彼の手の中の物体に皆の視線が集まる。
「もしかしたら……なぁ、誰かあいつの家まで連れていってくれないかい?」



それから先の事は、僕も人から聞いたので詳しくは解らないのだけど…
倒れた級友と仲の良かった一人の案内で自宅まで案内された彼は、虫の息のそいつの枕元まで行き……
「変な赤い卵を倒れてるあいつの胸の上にかざしてさ、そしたらその光がスーッと体の中に
 吸い込まれて行くんだよ!
 光が消えて無くなると同時に、あいついきなり目ぇ覚ましてさ!!」
正に奇跡としか言えない事が起こったらしい。

後で僕はこっそり彼に聞いてみた。
「君、一体何をしたんだい?」
「何もしてないさ。ただ、見つけて拾ったから返しただけ。元の持ち主に」
「拾ったって…何を?」
「何て言えば良いのかなぁ…生命力っていうか……命。かなぁ?」
唖然とする僕に、彼は小さく笑う。
「結構落ちてるんだよ、アレ。持ち主が解れば今回みたいに返せるんだけど
 …解らない場合も多いから家の引き出しに閉まってあるんだ。
 けっこう貯まっちゃってさぁ……誰にも内緒だぜ、君にだから言うんだ」


翌日、死にかけていた級友は元気に登校した。
皆は言う、あいつは彼のお影で命拾いした、と。
それが真実に近いと云うことは僕だけが知っている。

彼の拾った命のお陰で、あいつは助かったのだ。

今日も彼は下を向いて歩く。その瞳は今日も不可思議な物を見付け、そして拾う。







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