Who?What?Day小説 後編
↑サムクテゴメンナサイ
社員一同は、本日最も大きな驚愕の声を上げた。 「ナンバー7、君だっ!」 そんな誹謗中傷の中、ナンバー7はゆっくりと一同の前に歩み出た。副総統から厳しい質問が飛ぶ。 「何故、黙っていたナンバー7君。隠し通せるとでも思っていたのか? 苦しげに呟く社員7。総統が静かに彼を促した。 「ナンバー7、皆に報告するんだ。君が誰からマジチョコを貰ったかを」 興味津々といった風の多くの視線の中、社員7は小さくその名を言った。 「図書委員の、M、さんです」 一瞬、沈黙がその場を支配した。 社員の一人が恐る恐る彼に尋ねる。 「図書委員のMさんって、 頷いた社員7に、今度は羨望の言葉でざわめきだす社員達。 「あのすっげー可愛い娘だよな?」「畜生、羨まし過ぎるぜぇぇ」「やっぱモテるのか、バンドメンはっ!」 総統の怒声に、皆慌てて口を噤む。 「さて、それでどうするつもりだね、ナンバー7。君はMさんの思いにどう答えるつもりなんだ?」 語り始めた社員7に、一同は静かに耳を澄ます。 「…最初は友達がドッキリの悪ふざけ企んでるんだろうって思ってました。 ひゅ〜い、と誰かが軽薄な口笛を吹いた。 「で、お前どうしたんだ?」「まさかもう付き合ってるとか?」 浴びせかけられる問いに、社員7は首を振った。 「いきなりOKは出来ないよ。 副総統が感心しながら呟いた。 「しかし、何の面識も無い筈のナンバー7に、何故M嬢は惚れたのだろう…」 訝しげな総統に、社員7も頷いた。 「俺もそう思って、理由を聞いて見たんです。 副総統が呆れたように呟き、 「…うう、自分でも恥ずかしいと思います。だから彼女に言ったんです。 じゃあ、この一ヶ月間、親友になりませんか?お互いのこと知るために。 ぐわーぁぁと、悶絶する者が多数出た。 「そこまでMちゃんに言わせるなんて!」「健気だ、健気だよMさんっ!」「羨まし過ぎつだぁぁ、7よぉぉ!」 「そして、明日が一ヶ月、ホワイトデーか。返事はどうするのだ、ナンバー7よ?」 鋭い視線の総統に、社員7は若干戸惑いながら、言った。 「俺は…断ろうと、思ってます」 『なんだって〜っ!』 「こここ断るって、お前本気か、7っ!?」 騒ぎを収め、場が静まるのを待って総統は再度、社員7に問う。 「お前は、それで良いのか?本当に、断るのかナンバー7?」 怒声を上げた総統に、社員の殆どが同意するかのように頷いた。 「理由が知りたい、答えろナンバー7!性格が実は最悪だったのか?」 総統と社員全員の声がハモった。 『馬鹿か!お前は!!』 「そう考えても、お前、M嬢に惚れるだろう、普通はぁ!」 ぜいぜいと息を切らしながら叫ぶ総統に、だが社員7は苦悶の表情を浮かべて叫び返した。 「だって、俺、総統、好きなんですっ!」 辺りの反応に気付き、慌てて社員7は首を振った。 「いえ、そんなんじゃなくて、ホモじゃないよ、俺! しどろもどろの社員7の肩を、副総統が優しく叩いた。 「…君は、本当に優しい奴だな。ナンバー7君。知って、いたんだね?」 副総統の言葉に、社員7ホモ疑惑に沸いていた社員達は一斉に頭の上に?マークを掲げた。 「すいません、本当にすいません、総統閣下!」 訝しげに両眼を潜めた総統を、きっと見つめて…社員7は言った。 「俺、知ってたんです。総統が、密かに、Mが…好きな事」 言葉を失った総統に、副総統が静かに社員7の心を代弁して見せた。 「ナンバー7君は…知っていたんです。閣下、貴方がMさんを好きなことを。 沈痛な表情で、社員7は頷いた。 「俺、総統閣下が、定期的に図書館に通いまくりなの、知ってました。 口を押さえて絶句している総統。マスクの下の顔は真赤になっている。 「俺、総統の、モテなくても、いつも自信たっぷりで…俺達社員に厳しくも優しくて… あまりの展開に呆然とする社員達。ぽつりぽつりと投げかけられる問いに、社員7は頷いた。 「報告、できる訳が無かった!閣下を悲しませるだなんて…それに最悪、俺はKKK脱退を命ぜられる! 副総統の鋭い指摘に、がっくりと社員7は肩を落とした。 じゃあ、この一ヶ月間、親友になりませんか?お互いのこと知るために。 「そう言った時のM…。泣きそうな顔でした。必死って感じで。 口を押さえ、考え込んでいた総統が、ゆっくりと顔を上げた。 「そそれで、明日どう答えるんだ、ナンバー7?」 静かに問いかけられる。社員7は一瞬泣きそうな表情になると、掠れた声で言った。 「断り、ます。皆さんと、閣下を裏切る訳には…」 彼の頬を、総統の無言の拳が殴った。ふいの衝撃で床に吹っ飛ぶ社員7。 「総統っ!」 慌てて周りが止めに入る。 「馬鹿か、お前は!」 頬を押さえて真っ青になるナンバー7。周りの社員からも擁護の声が上がる。 「破門はやり過ぎです、総統!」「良いじゃないですか、付き合わないって言ってるんだから!」 号泣しながら総統は叫んだ。 「俺達なんかの為に、振られちまうMちゃんだっ!!」 はっと息を呑む社員達。彼らを見回しながら、涙でぐっちゃぐちゃの総統は熱く語る。 「いいか、告白だ。女の子が勇気を振り絞って行う決死の行為だ。 副総統にハンカチを手渡され、彼は頭巾の中に手を入れて器用に涙を拭った。 しゃくりあげる総統の背中をなでながら、副総統は社員7に再度言い渡す。 尚、抵抗の素振りをみせる社員7。だが副総統は拒絶するかのように頭を振った。 どうやら冷静さを取り戻せたらしい。鼻をすすり上げ、いつもの調子で総統が身振り手振りの演説を開始する。 「ここは確かに居心地が良い。我等、全員モテない。 涙に濡れながら社員7は微笑んだ。 「覚えててくれたんですか、総統閣下」 ぱっちりとウインクをされて、感極まって社員7は号泣し始めた。 「総統、総統っすいません!俺、本音は、彼女と付き合いたかったんですっ!」 副総統が手を鳴らし、号令を掛けた。 「皆、脱退式の準備を!!」 部屋出入り口の暗幕が取り外された。入り込んでくる陽光。春の風の匂い。 その列の前を、ゆっくりと社員7が歩く。部屋の外へ向かって。 「頑張れよ、7!」 社員一人一人と握手をし、言葉を交わす。 出口に一番程近い場所に、総統と副総統が待っていた。 「副総統、お世話に、なりましたっ!」 「総統、総統、俺っ!」 一喝され、思わず社員7は直立不動の体制をとり、慌てて返答した。 「はっ!申し訳ありません、総統閣下!」 彼の態度に、総統は思わず微苦笑を漏らした。 「もうその呼び方をされる事はないと思うと、少し寂しいが…」 言いながら右手を差し出す。 「彼女を泣かせたら、もう一度殴られると覚えておけよ!幸せにな!」 社員7はしっかりとその手を握り返した。 「はい、総統、皆さん…今までお世話になりました!」 深々と頭を下げ、社員7は表へ飛び出していく。その手には剥ぎ取った頭巾。 「KKKに、栄光あれっ!」 もし、あなたが誰かにチョコレートを…義理でも本命でも麦チョコでも、なんでも良いからあげたとして。 もしかしたら、そのチョコの裏側で…。ホワイトデーの前日、このような出来事があったのかも知れない。 貰えなかった人にも、貰った人にも、返す人にも、返さない人にも、須らくドラマはある。確実に。 とある高校にあるという、謎の結社KKK。 ホワイトデー一つで此処まで大騒ぎできる謎の社員達。 部屋の中の社員達は、静かに贈る言葉を合唱している。 「実は、かなりショックだったんじゃありませんか?彼に先を越されて」 強がりながら、総統はそっと頭巾を上げた。暖かい風に気持ちよさそうに両眼を細める。 通った鼻筋、柔らかで透き通るような栗色の髪、大きな瞳の端に小さく涙の粒が浮かんでいた。 「しかし、総統はいつ見てもイイ男だよなぁ」 この美しい総統に、何故彼女が出来ないのか、という事に違いない…。 END |
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