Who?What?Day小説 後編
      ↑サムクテゴメンナサイ






 社員一同は、本日最も大きな驚愕の声を上げた。
ざわざわと囀る社員達の中、一人落ち着かない人物。
彼を指差し、総統は叫んだ。

「ナンバー7、君だっ!」
「くっ!」と格闘漫画で傷ついた主人公のような苦悶の声を上げた社員7に、
辺りから非難が浴びせかけられる。
「この、裏切り者っ!」「そういえばあいつ最近バンド初めてモテ出してたな…」

 そんな誹謗中傷の中、ナンバー7はゆっくりと一同の前に歩み出た。副総統から厳しい質問が飛ぶ。

「何故、黙っていたナンバー7君。隠し通せるとでも思っていたのか?
甘いぞ!我らがネットワークを甘く見るな!」
「報告しなかった事は、悪かったと思っています」

 苦しげに呟く社員7。総統が静かに彼を促した。

「ナンバー7、皆に報告するんだ。君が誰からマジチョコを貰ったかを」

 興味津々といった風の多くの視線の中、社員7は小さくその名を言った。

「図書委員の、M、さんです」

 一瞬、沈黙がその場を支配した。

 社員の一人が恐る恐る彼に尋ねる。

「図書委員のMさんって、
あのショートボブで眼鏡っ娘で、病弱な運動音痴の、あのMさんなのか?ナンバー7っ!?」
「ああ、そうだ」

 頷いた社員7に、今度は羨望の言葉でざわめきだす社員達。

「あのすっげー可愛い娘だよな?」「畜生、羨まし過ぎるぜぇぇ」「やっぱモテるのか、バンドメンはっ!」
「静粛に、静粛に、諸君っ!」

 総統の怒声に、皆慌てて口を噤む。

「さて、それでどうするつもりだね、ナンバー7。君はMさんの思いにどう答えるつもりなんだ?」
「おれ、俺は…実はMの事なんて、最初は何とも思ってなかったんです。
でも一ヶ月前、バレンタインの日に靴箱に手紙が入ってて…」

 語り始めた社員7に、一同は静かに耳を澄ます。

「…最初は友達がドッキリの悪ふざけ企んでるんだろうって思ってました。
何の期待もせずに、指定された場所に行ったんです。
学校裏の、あの伝説の木の下に…そしたら、木の陰からMが恥ずかしそうに現れて…」
「な、なんて萌えシチュエーションだ!」
「ちょっと黙りたまえ、ナンバー3。良いぞ、続けろナンバー7」
「は、はい総統閣下。
で、彼女から手紙と手作りのトリュフ渡されて…ずっと前から見てましたって、
よかったら付き合って下さいって…」

 ひゅ〜い、と誰かが軽薄な口笛を吹いた。

「で、お前どうしたんだ?」「まさかもう付き合ってるとか?」

 浴びせかけられる問いに、社員7は首を振った。

「いきなりOKは出来ないよ。
Mとはクラスも違うし、俺、彼女のこと余り知らないから…急に付き合うとかそんなのは出来ないって、
彼女にもそう答えた」
周囲から、いくつかの感嘆の吐息が漏れる。
「流石、ナンバー7君だ。
可愛いから、告白されたから取りあえず付き合おう、とか軽薄極まりない一般男子を寄せ付けぬ
硬派な男気っぷりだ」

 副総統が感心しながら呟いた。

「しかし、何の面識も無い筈のナンバー7に、何故M嬢は惚れたのだろう…」

 訝しげな総統に、社員7も頷いた。

「俺もそう思って、理由を聞いて見たんです。
そしたら…俺、動物好きなんですけど、家族にアレルギー持ちが居て、こっそり空き地で子猫飼ってたんです。
どうやら彼女それを知ってたらしくて、雨の日に、子猫に傘を譲って濡れながら帰っていく俺に惚れたって…」
「ナンバー7君。何だね、そのステレオタイプ極まりないネオロマキャラっぷりは…」

 副総統が呆れたように呟き、
周りからも「あざとい!」「なんだよ、空き地で猫って!」という囁きが漏れ聞こえる。

「…うう、自分でも恥ずかしいと思います。だから彼女に言ったんです。
俺は君が思ってるような優しい男じゃないよ、って。
やってるバンドも、マリリン・マンソンとかニル・ヴァーナのコピーバンドだし、
ダウナー系だし、辞めといたほうが良いよって。
俺も…君の事何にも知らないし。そしたら…彼女こう言ったんです」 

 じゃあ、この一ヶ月間、親友になりませんか?お互いのこと知るために。
来月のホワイトデーに、返事を下さい。それで振られたのなら、私、納得できますから。 

 ぐわーぁぁと、悶絶する者が多数出た。

「そこまでMちゃんに言わせるなんて!」「健気だ、健気だよMさんっ!」「羨まし過ぎつだぁぁ、7よぉぉ!」

「そして、明日が一ヶ月、ホワイトデーか。返事はどうするのだ、ナンバー7よ?」

 鋭い視線の総統に、社員7は若干戸惑いながら、言った。

「俺は…断ろうと、思ってます」 

『なんだって〜っ!』 
本日何度目かになる驚愕の声が上がる。ってか彼等、こんなに叫んで喉は潰れないのか、大丈夫なのか。

「こここ断るって、お前本気か、7っ!?」
「相手は器量良し、性格良し、眼鏡っ娘、三拍子揃った完璧萌え娘だぞ!」
「静粛に、静粛にしたまえ!」

 騒ぎを収め、場が静まるのを待って総統は再度、社員7に問う。

「お前は、それで良いのか?本当に、断るのかナンバー7?」
「は、い。相当閣下。断ります!」
「解せん!何故だ!なぜM嬢を振る?普通喜んで付き合うのだろ!」

 怒声を上げた総統に、社員の殆どが同意するかのように頷いた。

「理由が知りたい、答えろナンバー7!性格が実は最悪だったのか?」
「いえ…若干引っ込み思案ですが、優しい良い娘です」
「実は飲酒喫煙盗癖が有ったのか?」
「アルコールはウイスキーボンボンレベルも駄目ですし、煙草の煙があるとクシャミが止まらなくなるそうです。
盗癖なんか有る訳がありません!」
「実は尻軽女だったとか?」
「まさか!今まで付き合ったことは無いと、彼女の友人から教えて貰いました」
「趣味が合わない!」
「彼女は読書、俺は音楽、共通趣味は映画!インドア同士で愛称最高です!」
「容姿が嫌だ!」
「最高に可愛いと思います!」
「時間を守らない」
「待ち合わせ五分前にはその場に居ます」
「壊滅的に料理が下手!」
「ですがそこに萌えです!」
「掃除が出来ない!」
「むしろ整理整頓は上手いほうです!」

 総統と社員全員の声がハモった。 

『馬鹿か!お前は!!』

「そう考えても、お前、M嬢に惚れるだろう、普通はぁ!」
「でも、でも、俺はMとは付き合えません!」
「何でだっ!」

 ぜいぜいと息を切らしながら叫ぶ総統に、だが社員7は苦悶の表情を浮かべて叫び返した。 

「だって、俺、総統、好きなんですっ!」
しん、と辺りが静まり返り、引きつりながら総統は後退る。

「え、あ、そうだったんだ。ナンバー7てば、そういう趣味だったのか」
「801だ」「801人だ」「え?モーホー?」

 辺りの反応に気付き、慌てて社員7は首を振った。

「いえ、そんなんじゃなくて、ホモじゃないよ、俺!
総統の事を尊敬してるから、Mとは付き合えないっていうか…」

 しどろもどろの社員7の肩を、副総統が優しく叩いた。

「…君は、本当に優しい奴だな。ナンバー7君。知って、いたんだね?」

 副総統の言葉に、社員7ホモ疑惑に沸いていた社員達は一斉に頭の上に?マークを掲げた。
そんな中、社員7は涙を瞳に浮かべながら深々と総統に頭を下げた。

「すいません、本当にすいません、総統閣下!」
「どういう、事だ。ナンバー7?」

 訝しげに両眼を潜めた総統を、きっと見つめて…社員7は言った。

「俺、知ってたんです。総統が、密かに、Mが…好きな事」
「っ!お前――っ!」

 言葉を失った総統に、副総統が静かに社員7の心を代弁して見せた。

「ナンバー7君は…知っていたんです。閣下、貴方がMさんを好きなことを。
彼は義理堅く、優しい人柄です。尊敬する貴方の好きな人と、自分等が付き合うわけには行かない。
…君はそう思ったんだね、ナンバー7君?」

 沈痛な表情で、社員7は頷いた。

「俺、総統閣下が、定期的に図書館に通いまくりなの、知ってました。
受付がMの時にだけ…マルクスだのニーチェだの普段は読みもしない難しそうな本を借りてて…総統閣下、
いつもはラノベお好きなくせに」

 口を押さえて絶句している総統。マスクの下の顔は真赤になっている。

「俺、総統の、モテなくても、いつも自信たっぷりで…俺達社員に厳しくも優しくて…
そんな所を本気で尊敬していたんです。
だからあの日Mに告白されても、最初は振るつもりでした。
だって閣下の好きな人と僕が付き合うなんて、そんな背徳行為許されないと思ったんです」

「7、お前…」「それで、報告も、しなかったんだな」

 あまりの展開に呆然とする社員達。ぽつりぽつりと投げかけられる問いに、社員7は頷いた。

「報告、できる訳が無かった!閣下を悲しませるだなんて…それに最悪、俺はKKK脱退を命ぜられる!
だからその場できっちり断るつもりだった」
「でも、出来なかった」

 副総統の鋭い指摘に、がっくりと社員7は肩を落とした。 

じゃあ、この一ヶ月間、親友になりませんか?お互いのこと知るために。
来月のホワイトデーに、返事を下さい。それで振られたのなら、私、納得できますから。 

「そう言った時のM…。泣きそうな顔でした。必死って感じで。
その時、思ってしまったんです俺!ああ、可愛いなぁって。
俺なんかの事、こんなに好きで居てくれるんだなぁって。
だから、つい承諾してしまいました。一ヶ月、一ヶ月の間に、彼女の嫌な部分を見つけてしまえば、
それで直ぐ嫌いになれるからって、そう自分に言い訳しました」
「でも、見つけられなかった?」
「そう、です、副総統閣下!駄目でした、彼女はすごく良い子で、むしろどんどん引かれて行く自分が居ました」

 口を押さえ、考え込んでいた総統が、ゆっくりと顔を上げた。

「そそれで、明日どう答えるんだ、ナンバー7?」

 静かに問いかけられる。社員7は一瞬泣きそうな表情になると、掠れた声で言った。

「断り、ます。皆さんと、閣下を裏切る訳には…」

 彼の頬を、総統の無言の拳が殴った。ふいの衝撃で床に吹っ飛ぶ社員7。

「総統っ!」
「ちょ、閣下、止めて下さいっ!」

 慌てて周りが止めに入る。

「馬鹿か、お前は!」
総統の激昂が飛ぶ。
「私を傷つける訳には行かない?此処の皆を裏切れない?お前は馬鹿だっ!
今日限りで、お前はKKKを破門だっ」
「そ、そんなっ!」

 頬を押さえて真っ青になるナンバー7。周りの社員からも擁護の声が上がる。

「破門はやり過ぎです、総統!」「良いじゃないですか、付き合わないって言ってるんだから!」
「お前達も馬鹿だっ!そりゃ、ナンバー7が居なくなったらKKKにとって大打撃さ。
私だってMちゃんが彼氏持ちになったら死ぬほど悲しいさ!でもな、でもな、一番悲しいのは…」

 号泣しながら総統は叫んだ。

「俺達なんかの為に、振られちまうMちゃんだっ!!」

 はっと息を呑む社員達。彼らを見回しながら、涙でぐっちゃぐちゃの総統は熱く語る。

「いいか、告白だ。女の子が勇気を振り絞って行う決死の行為だ。
それも引っ込み事案のMちゃんが…どれだけの想いだったか考えてみるんだ!
しかも一度振られても、一ヵ月後にもう一度チャンスをくれ、なんて懇願する。
そんだけナンバー7が好きなんだよ、そんだけの度胸が我々にあるか?ええ?」
「総統、少し落ち着いて下さい」

 副総統にハンカチを手渡され、彼は頭巾の中に手を入れて器用に涙を拭った。

 しゃくりあげる総統の背中をなでながら、副総統は社員7に再度言い渡す。

「ナンバー7君。君は今日をもって、KKKを脱退しなさい。
君の事を思ってくれている子がいるんだ。孤独高校生じゃあもうないんだ…」
「でもでもっ!」

 尚、抵抗の素振りをみせる社員7。だが副総統は拒絶するかのように頭を振った。

「駄目だ。君は怖いだけなんだ。この傷の舐め合いサークルから抜け出す事が。
新しい世界に…幸せだけど、時に酷く傷つけあう、
彼氏彼女という新しい世界に踏み込むのを躊躇してるだけなんだ」
「そうだぞ!」

 どうやら冷静さを取り戻せたらしい。鼻をすすり上げ、いつもの調子で総統が身振り手振りの演説を開始する。

「ここは確かに居心地が良い。我等、全員モテない。
この結社の半分は…我等を認めてくれない全女性への妬みで構成されている。
でもな、残り半分は…全女性への期待なんだ。いつか、自分を受けいれてくれる女性への、期待だ。
会合ごとに、話し合ったじゃないか。
ツンデレ妹育成方法、眼鏡お下げの学級委員の傾向と観察、ちょっぴりドジな新任女教師の理想のスカート丈、
そして君の萌え属性は…しっかり者のお姉さんキャラだったね?」

 涙に濡れながら社員7は微笑んだ。

「覚えててくれたんですか、総統閣下」
「ああ、社員全員の萌え属性は全て暗記済みだからな。M嬢は確かに君の属性とはかけ離れている、
が、現実の色恋なぞそんなものさ。こちらの想い通りには行かない。
だからこそ引かれるのだそうな。時に失望し、だがそれ以上に素晴らしい出来事もあるだろう。
君はバーチャルからリアリティへの数少ない、貴重な切符を手に入れたのだ。
私はM嬢に惚れ直したよ。君は義理堅く、優しい結社構成員だった。
彼女は正しい相手に惚れた。君なら、彼女を泣かせたりする事はないと私は信じているのだからね」

 ぱっちりとウインクをされて、感極まって社員7は号泣し始めた。

「総統、総統っすいません!俺、本音は、彼女と付き合いたかったんですっ!」
「それは私もだったさ。だが、彼女の選んだのは君だ!さぁ、胸を張って彼女に返事をして来いっ!」

 副総統が手を鳴らし、号令を掛けた。

「皆、脱退式の準備を!!」

 

 

 

 部屋出入り口の暗幕が取り外された。入り込んでくる陽光。春の風の匂い。
一列に並んだ黒い頭巾、黒いローブの男達。

 その列の前を、ゆっくりと社員7が歩く。部屋の外へ向かって。

「頑張れよ、7!」
「くそぉぉ、羨ましいぜ!」
「戻ってくるなよ〜」

 社員一人一人と握手をし、言葉を交わす。

 出口に一番程近い場所に、総統と副総統が待っていた。

「副総統、お世話に、なりましたっ!」
「うん、君が居なくなるのは寂しいが…彼女と仲良くするんだよ?さぁ、ローブを」
促されて、彼は纏っていたローブを脱ぐ。その下には緑色のブレザーを着ていた。高校の制服である。
それを副総統に返還する。堅く握手を交わし、最後の一人の前に、総統の前へと歩み寄った。

「総統、総統、俺っ!」
「社員7、お前は今日帰ったら水分補給をしっかりするように!
明日泣きはらした目で彼女に返事する気か!情けないぞ!」

 一喝され、思わず社員7は直立不動の体制をとり、慌てて返答した。

「はっ!申し訳ありません、総統閣下!」

 彼の態度に、総統は思わず微苦笑を漏らした。

「もうその呼び方をされる事はないと思うと、少し寂しいが…」

 言いながら右手を差し出す。

「彼女を泣かせたら、もう一度殴られると覚えておけよ!幸せにな!」

 社員7はしっかりとその手を握り返した。

「はい、総統、皆さん…今までお世話になりました!」

 深々と頭を下げ、社員7は表へ飛び出していく。その手には剥ぎ取った頭巾。
満開の桜の下で其れを中空へ投げ、彼は叫んだ。


「KKKに、栄光あれっ!」

 

 

 

 もし、あなたが誰かにチョコレートを…義理でも本命でも麦チョコでも、なんでも良いからあげたとして。

 もしかしたら、そのチョコの裏側で…。ホワイトデーの前日、このような出来事があったのかも知れない。

 貰えなかった人にも、貰った人にも、返す人にも、返さない人にも、須らくドラマはある。確実に。

 とある高校にあるという、謎の結社KKK。

 ホワイトデー一つで此処まで大騒ぎできる謎の社員達。
集会場所も、構成社員数、その素性一切謎のこの組織、だがこの結社一番の謎、それは…。

 

 

 

部屋の中の社員達は、静かに贈る言葉を合唱している。
桜並木の中、小さくなっていく男の姿を見送り副総統は小さく総統に囁いた。

「実は、かなりショックだったんじゃありませんか?彼に先を越されて」
「ふん、あの二人なら上手くやるさ。きっとな。しかし今日は風が気持ちいいな」

 強がりながら、総統はそっと頭巾を上げた。暖かい風に気持ちよさそうに両眼を細める。

 通った鼻筋、柔らかで透き通るような栗色の髪、大きな瞳の端に小さく涙の粒が浮かんでいた。

「しかし、総統はいつ見てもイイ男だよなぁ」
「しっ!浸ってらっしゃるのだ、俺達は歌に専念しよう」

 

 

この美しい総統に、何故彼女が出来ないのか、という事に違いない…。

 

 

 

END

 



前半へ戻っちゃう?



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