メイド☆ラプソディ No.6







馬車に押し込まれ拉致されること15分弱、4時間前に出たお屋敷に到着です。

私のお休みは儚く消えてしまったのですね………。
ああ、薬草全集第5巻を完読しようと思っていたのに……第5巻は毒草特集で面白かったのに………。
傷口に塗り込むとそこからどんどん腐っていくヤクミワク草や
服用させることで内臓を肥大させて死に至らすことができるチミタリ草。
図鑑を捲り知識が蓄えられていく快感。
未知なるものに触れる高揚感。

………ああ、私のお休みがぁぁぁ〜〜〜!
と、うなだれているとお嬢様に馬車から蹴り落とされてしまいました。
お嬢様は私を蹴り落とすなり、慌てて馬車をおり、優雅に私の目線まで腰を落としました。
「ダリア、大丈夫? ごめんなさいね、わたくしの足が引っかかったみたいで……」
「いいい、いいいいいいえー」
その様子はメイドごときを心配する心優しいお嬢様と、か弱いメイド……になることはなく、
ドジでお嬢様に迷惑をかけるメイド。
ええ、馬車のドアを開けてくれた従者さんの目がそう言ってます。
世の中理不尽だーーー!!!

お嬢様はお屋敷に入るなり、玄関の脇にかかっているベルを振り鳴らし、声を張り上げました。
「ムーア、ムーアはいないの?」
しばらくすると、階段からふくよかな年配の女の人が降りてきました。
丸いほっぺに笑みを浮かべている穏やかなこの方こそ、
お嬢様とお坊ちゃま(そうです、お嬢様にはお兄様がいるのです)の乳母で、メイド頭のムーア様です。

「お嬢様、どうかしましたか?」
「忙しいところ、ごめんなさいね。事情は後で話すから、とりあえずは、ダリアを磨いてくれるかしら?」
唐突なお嬢様の指示にムーア様は頷きました。
「分りました。とてもいいことです。
 私も前々からダリアのことはどうにかしなければと思っていたのですよ。
 年頃の娘がこれではいいお婿さんにめぐり合えないですからね」
お、おおお、お婿さん?!
私からは縁遠い言葉です。
私、まだ12歳ですし……。
まぁ、貴族の方々にとっては結婚適齢期かもしれませんが……ほら、私よりももっと適齢期に近い方が
側にいらっしゃるじゃないですか!
「人間容姿ではないと言っても限度はありますからね。
 もちろん、外見を過剰に飾りつけるよりは遥かに好ましいと私は思うのですが、
 やっぱり最低限の身だしなみは必要ですからね。
 大丈夫ですよ、恵まれた容姿でなくても清楚で清潔感のある女性はそれだけで、
 知性のある男性からは好まれますからね」

………ムーア様、さりげに酷いこと言ってますねー。
どうせ、私は容姿に恵まれてませんとも!

ムーア様が懐からベルを取り出しました。
「ロゼッタ、マリア」
「「はい、ムーア様」」
ムーア様に呼ばれてやってきたのは、ロゼッタ姉さんとマリア姉さんです。
長身細身黒髪の猫顔な方がロゼッタ姉さんで、小柄で茶髪のまるでお人形のように愛らしい方がマリア姉さん。
メイド全員集合ですね。

ヴェリチ家は一尊貴族なのに、私を合わせメイドが4人しかおりません。
下働きの方はある程度人数は揃えていますけどね。
スパイを潜り込ませないように、最低限のことは自分でやる、それがヴェリテ家の代々の掟だそうです。
ちなみに庶民の女の子にとってメイドは憧れの職業だそうですが、ここはオススメしませんよ。
お嬢様を初め、みんなキャラが濃いから大変なんです、精神的に。

慈愛と哀れみの篭った、まるで捨て犬を見るような眼差しで私を見つめながら、ムーア様は言いました。
「ダリアを見れる格好に整えて下さい」
もう、どうでもよくなりました。
煮られるわけでも焼かれるわけでも捌かれるわけでもないのですから、ここは大人しくすることにしましょう。
大人しく、大人しくしているから、
「「かしこまりました」」
「ダリアちゃん」
「行くぞ」
「首引っ張るのはやめてくださいー!!!」
私の意見はとても悲しいことに一切取り入れてもらえないみたいです。

連行され連れてこられたのは、いつもメイド達が利用している湯浴み場ではなく、
家人用の湯浴み場でした。
湯船には花びらやポプリの袋が浮かべられ、女神の壺から惜しげなく湯が注ぎ込まれ溢れ出しています。

「こ、ここは、ま、まずいのではないかと……」
「大丈夫よ、お嬢様がここを使ってとおっしゃってくれたから。
 メイド風情への心配り……あー、なんて心優しいお嬢様なんでしょう!」
マリア姉さんは上空を潤んだ眼差しで見つめています。
きっとその先には幻の、実際にはありえない優しいお嬢様が浮かんでいるのでしょう。
………いつものことです。一日に軽く10回以上は見かける光景です。
「いいからさっさと脱げ」
痺れを切らしたロゼット姉さんが私のスカートを捲り上げ、強引に頭から外そうとしています。
「ま、まままま待ってください、ちょ、ちょっとちょっと〜〜〜!!!」
「幼児体型で照れるんじゃない」
「余計なお世話ですぅ! お、お風呂ぐらい一人で入れますので、出てってください!」
「「あ゛!?」」
「なんでもありません………」
こうして、私はいろんなものを諦めていくのです………。



「えーっと、まずはタワシでしょ。それから研磨剤」
「それは拷問かと………」
「ふふ、冗談よ。なんてねv」
「どっちですか!?」
「見事に発育不良だな。この発育不良娘、あれだけ食べていて成長しないっていうことはどういうことだ?! 
 これじゃ、うちがいいものを食わせてないみたいじゃねーか!」
「そ、そーゆー体質なんです」
「あら、太らない体質って自慢したいの〜? ………死ねv」
「ンギャーーーーー!!!!!」

 




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