舌の上の背徳3


 

 


告白・U

ある日のことでした。姉が体中に擦り傷を作り、私たちのねぐらに帰って来たのです。
ぼろぼろだった服はさらにぼろキレの様になり、いつもは精気に満ち溢れ、
輝いている彼女の瞳は何の感情も移してはいませんでした。

「姉さん!?どうしたのっ?」
彼女の元に駆け寄って、体を揺さぶると姉はようやく我に返ったようでした。
「……あぁ、ただいま」
「ただいまって……。傷だらけじゃないかっ」
「別に、別に何でもないわ」
そうにっこりと笑い…無理やりに笑顔を作った、そんな感じのする表情を浮かべ、
姉は紙袋を私に差し出しました。

「さ、食べよ?今日の収穫よ」



差し出された紙袋の中身はとても美味しそうなベーコンとレタス、
トマトのサンドイッチでした。
作り立てなのでしょう、レタスは青々と美しく、ベーコンの油の焼けた匂いが鼻腔を
くすぐります。
私は姉の変わった様子等直ぐに忘れてしまって、歓声をあげ早速サンドイッチに
噛み付きました。

「美味しい?」
「うんっ!今日のもとっても美味しいよ姉さんっ!」
「そう…良かった」
私の答えに姉は心底嬉しそうに、そしてホッとした様に微笑みました。

最初の内は食パンのみだったのですが、何時しかそれに缶詰のスープが付く様になり、
小ぶりな林檎が付くようになり、ある時はドライフルーツたっぷりのケーキまでも。
姉が買って来る食べ物は日に日に美味しく、贅沢になって行きました。

「姉さん、今日も凄いご馳走だね!!」
「ふふん。私ってお得意様が多いから結構儲かるのよ?」
御馳走をたいらげながら、姉はそう言って自慢げに胸をはるのです。



…しかし、その日は違っていました。
姉はサンドイッチを頬張る私をただ見つめているだけで、自分は食べようとしないのです。
「姉さん?食べないの?」
サンドイッチに手を付けようともしない姉に、訝しげに尋ねると姉は
弱々しく首を振りました。
「いいの、いいのよ、今日はあまり食べたく無いの…」
「でも何か食べなくちゃ……」
そう言いかけた瞬間、私は姉に抱きしめられていました。
何時も通りの暖かくて安心する彼女の体温と、埃まみれの汗の…すこし酸っぱい匂い。

いきなりの姉の行動に私が戸惑っている間に、私に抱きついているその体が
小さく震え出していました。
彼女は静かに泣いていたのです。

「ね、姉さん!?ど、どうしたのっ?」

私はパニックに陥ってしまいました。
気丈な姉がこんな風に泣く事等無かったのです。
…もちろん、小さな子供ですから泣く事など沢山有ります。
良犬に噛まれた時や、私との食料争奪の喧嘩の時、姉はよく泣きながら激高していました。
彼女は何時も大声で、元気いっぱい泣いていました。子供らしく、
実に無邪気に。
しかし、こんな風に何かを耐え忍ぶように、声を押し殺して無く事などありませんでした。

 

 


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