ツイてる!? 3





「あなた名前は?あっ、聞く前に先に名乗るのが礼儀よね?あたしは『ミナギマナミ』です!マナって呼んでね」

にこにこ楽しそうに笑いながら少女は名乗る。

しかし、ミナギマナミってどんな漢字で書くんだろ?
ぱっと思い浮かばない。
マナミは真奈美辺りかな?

「それであなたの名前は?」
「あ、俺は冬夜。秋の庭、冬の夜って書いてアキバトウヤ」

マナは俺の名前を口の中で呟くとにこっと笑った。

「なんだかおめでたそーな名前だね」
「…どこが?」
「秋の庭は紅葉で紅くて、冬の夜は雪で白い。だから『紅白』って感じ。おめでたそーじゃない?」

突拍子もない答えに俺は思わず吹き出してしまった。

「ぷっ。くくくっ…な、何だよ、それ。そんな事言われたの俺初めてだよ」
「…そう?」

ちょっと照れた様に微笑んで首を傾げる少女の姿に俺は改めて見惚れていた。

「………え、えーっと、ミ、ミナギさん?」
「違う!」

俺の呼び掛けをすぱっと否定した少女は自分を指差した。

「あたしの事はマナって呼んでってば」
「………マ、マナさん?」
「ダーメ!『さん』はいらない!」
「………マ、マナ?」

俺はその時、初対面の女の子を名前で呼び捨てるなんて今までした事のない行動にかなり緊張していた。

「よろしい!で、何?」

満足気ににっこり笑うマナはやっぱり可愛かった。

「…あ、いや、こんな暗いとこを一人で歩いていたら危ないんじゃないかな?って思ったんだけど。
 …………だってそんなに可愛いんだから」

最後の方は小声だったから多分聞こえなかったと思う。

ヘタレと言うなかれ。
そんなセリフを口に出すだけでも俺にとってはかなり度胸いったんだから。

「心配してくれてありがとう…。でもね、あたし行くとこないの」

そう言ってマナはそれまでと打って変わって寂しそうに目を伏せた。

「行くとこないってどういう事?」
「……信じられないかもしれないけど、あたし、名前以外憶えてないの」
「へっ?」
「今日のお昼頃だったわ。ふって我に返ったら道端に一人で立っていたの。
 何してたんだっけ?って最初に思ったわ。
 それから帰らなきゃって考えて、ここがどこなのか帰る場所がどこなのか、
 それどころかあたしが何なのかすらわからないって気付いたの」

突然の話にその時の俺はただ驚くだけだった。

「人の多いとこだったから手当たり次第に話し掛けてみて、
 あたしの話し相手になってくれる人を探してみたけど全然いなかった。
 それどころか、みんなあたしの声すら聞いてくれなかったの。本当に恐かった…」

俯くマナの頬を一筋の涙が伝った。

その話が本当だとしたらかなり不安だろう。
しかし、マナはその涙を拭うと微笑んだ。

「夜になっちゃったし静かなとこでこれからどうするか考えようって思ってここを歩いていたの。
 でもそのおかげでトーヤに出会えた!今、あたし本当に嬉しいの!」

頭の片隅で何かが引っ掛かる様な気もしたけど俺はその涙と笑顔にイチコロにやられてしまって
ついポロッと言ってしまっていた。

「行くとこないなら俺の家に泊まる?」
「えっ?」

それを聞いたマナの驚いた顔を見て、やっと俺は自分の言ったセリフの大胆さに気付いた。

記憶云々を別にしても、出会ってすぐの女の子を俺の家に泊まらないかって誘うなんて、
我ながらただの手の早い軟派野郎にしか見えない!

「…あ、いや、そういう意味じゃなくて、変な事するつもりもないし、あの…」
「変な事って?」

しどろもどろになる俺を見てマナはきょとんとして首を傾げた。

「……それはその…」

慌てる俺の姿を見ていたマナは我慢できないとばかりに口に手をやりくすくす笑いだす。

「…ごめんなさい。からかうつもりじゃなかったんだけど、慌てるトーヤの反応が可愛くて」

その時の気持ちを擬音にするなら『がーん!』がぴったりだった。

好みな女の子にからかわれて、おまけに反応が可愛いなんて言われて
ショックを受けない男はきっといないと思う。

「ホントごめんね?」
「いや、いいよ…」

内心はちょっと落ち込みつつも俺は笑ってぱたぱたと手を振った。

「……さっきの話、本気?」
「さっきのって…」
「トーヤの家にくるかって話」

改めて言われるとちょっと照れる。

「…まあ、本気で言ってはいるよ。とは言っても、俺の住んでるアパートの部屋ってワンルームだから
 俺と同じ部屋にいるのはイヤだろうし俺は友達のとこにでも泊めてもらうから
 マナが俺の部屋を使っていいし…」
「それはダメ!」

俺が言い終わる前にマナはきっぱりと否定をする。

やっぱり知り合ったばかりの男の家に泊まろうなんて考えないよなー。

「部屋の主を差し置いてあたしだけが住むなんて絶対ダメだよ。あたしはトーヤと一緒でかまわない」
「…は?」
「迷惑じゃなかったらしばらくトーヤの部屋で一緒に暮らしてもいい?」

あまりにも衝撃的なマナのセリフに俺の脳ミソは真っ白になって活動を停止した。








  
前へ    次へ



Home   Novel



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送