ツイてる!? 2





「ありがとうございましたー!」

その日、俺はいつも通りに弁当屋でバイトをしていた。
ちょうど夜のピークが過ぎ、お客様が店内からいなくなった時を見計らってたのか
バイトの先輩が話掛けてきた。

「なあ、秋庭くん」
「何ですか?香山さん」

香山さんは一つ溜め息を吐いた。
香山さんは同じ弁当屋でバイトしていて、バイトのまとめ役みたいな事をしてる人だ。

「……長沢くんが昨日入院したそうだよ」

入院!?
そういえば今日は長沢さんもシフトに入っていた筈なのに来てなかったっけ。
まだバイト始めたばっかの子だったとはいえ、忙しかったせいもあるけど、
気付かなかったのはちょっと悪かったかも…。

「長沢さんが?どうかしたんですか?」
「時間になっても店にこないから電話してみたんだが…交通事故だそうだ…」
「それで長沢さんは?」
「命に別状はない様だ。だが、まだ意識が戻らないと電話で弟さんが言っていたよ」
「…そうなんですか。大変ですね」
「それで秋庭くん、今日は九時までだったよな?悪いんだけど君、ラストまで入れないかな?
 長沢くんは今日のシフト、ラストまでだったんでね。なにせ急だったせいで代わりが見つからなくて」

ラストって事は十一時までか…。
掃除とかしてたら帰れるのは十一時半。
明日から学校もあるけど、どうするかな?
なんて考えてると香山さんは顔の前でぱんっと手を合わせた。

「頼む!もう皆には無理だって断られたんだよ」

…仕方ないなー。
これからも楽しくバイトする為に受けとくかな。

「わかりました。いいですよ。俺が代わりに入っときます」
「ありがとう!助かるよ。じゃあピークも過ぎたし、秋葉くんもそろそろ休憩に入ってきたらいいよ」
「じゃあ俺食事してきます。忙しくなったら呼んでくださいね」

そう言って俺は調理場を後にした。


「……今日も無事終了ー!!」

あれから大した問題も無く、店の営業時間は終わった。

「ラストまでの時はこれが楽しみなのよねー」

掃除も済んだ後、同じくバイトの綱島さんがにこにこ満面の笑みを浮かべ、
残った唐揚げを頬張りながらシャケをほぐしてオニギリを作っている。
本当は残った調理済みの食品は廃棄しなくちゃいけないキマリになってるんだけど、
食べれるヤツは皆で分けて食べてしまう。
店長も大目に見てくれてるし。

「捨てるなんてやっぱモッタイナイですもん!
あっ、ラッキー!今日はカツも残ってる!…私が貰っちゃってもいいですか?」

皆がどうぞどうぞとばかりに頷きを返すと嬉しそうにホイルで包み始める。

この人、何だか小動物系の人なんだよなー。
俺の一つ上の十八歳とはとても見えない。

「もういいかい?鍵を掛けるから皆出てくれるか」

香山さんの言葉に皆慌てて店から出て挨拶を交わし、それぞれの帰路についた。

「今日もお疲れさまでしたー!」
「また明日ー!」

俺は自転車にまたがってペダルを思いっきり踏んで走りだした。
店から家までは、明るい大通りを通ったら自転車で十分くらいで着く。
けど、今日は遅いから途中にある公園通って帰るかな?
昼間はいいんだけど、夜になると最近所々の街灯の電球が切れてるらしく
遊歩道の辺りなんか特に真っ暗だから、あんま突っ切りたくないんだけど、近道だから仕方ないよなー。
大体早く街灯直せって!

そんな感じに心の中でボヤキながら公園の中に入り、砂利の敷かれた遊歩道に差し掛かった時、
進行方向にすっと人影が飛び出してきた。

「うわっ!?」

咄嗟にブレーキを掛けようと手に力を入れる。
しかし返ってきたのは、すかっとしたあまりにも軽い手応えだけで、自転車の速度は変わらない。

その時はパニくって解らなかったけど、それはちょうど運悪くブレーキのワイヤーが切れた瞬間だった。

ヤバい、ぶつかるっ!!

そう思う前に体は反応してハンドルを横に切る。
が、タイヤを砂利に取られてバランスが崩れ、自転車はそのまま勢い良く横転してしまった。

「………いってぇ…」
「…えっーと、大丈夫?」

ゆっくり体を起こす俺に、恐る恐るって感じに声が掛けられる。
まだ幼さの残る女の声だった。
声の主は間違いなく飛び出してきた人影だろう。
いきなり飛び出られて驚いたし痛い目も見たけど、女の子相手にはあまりキツイ事言えないし、
コケた事は仕方がなかったと諦めとこう。
女の子に八つ当るのは格好悪いもんな。

「…ああ、俺はだいじょ…う…ぶ……」

顔を上げた俺は思わず声を失う。

「どうかした?どこかケガでもした?」

俺の目の前に存在したのは、一人の少女。
ふわふわした色素が薄めな髪の毛をツインテールにした、大きな瞳が印象的な、
多分俺と同い年ぐらいの少女が俺を見つめていた。

…か、可愛い……。

まず頭に浮かんだのはその一言だった。
はっきり言ってとても好みだったのだ。
一目惚れ、とまで大げさなモノじゃないけど、確かに俺はその少女に見惚れてしまっていた。

「…あたしの声、聞こえないのかな?」

ぽかんとして黙ったままの俺を見てちょっと困った様な顔をして少女は首を傾げる。

「…あ、いや、ご、ごめん。大丈夫、ちゃんと聞こえてるから」

俺が慌ててそう答えると、少女は嬉しそうに微笑んだ。

その笑顔に思わず頬が赤くなるのを感じながら、俺はここが明るかったら赤くなってるのバレてたから
暗くてよかったかも、なんて事を考えていた。

…彼女いない歴と年齢がイコールの人間が、可愛い女の子の笑顔を前にして他の事を考えられるハズもない。
だからその時の俺はそれがおかしい事だなんてちっとも気付かなかったんだ。







  
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