双子は揃って、商店街の八百屋さんへ向った。
八百屋のシャッターは閉まり、
『急なことで申し訳ございませんが、本日はお休みさせて頂きます』
と紙が貼られていた。
真咲が顔を顰める。
「真咲ちゃん、どう?」
見えない真由は真咲へ尋ねる。
「瘴気がふよふよ漂ってるわ。この間キャベツを買いに行った時はそんなことなかったのに。
また小父さんが変なモノを買ったのかしら……」
「手を焼きそう?」
「邪鬼はおびき寄せられていないし、大丈夫よ」
双子は、裏へ回って店と一体になっている自宅の玄関へと周りチャイムを押した。
「呼ばれて飛び出てサクラマーン!」
「……真由、怒るわよ」
「ごめんなさい………」
ドアを開けた八百屋の小母さんは二人を家の中へと促した。
日は暮れ、家の中を白熱灯が照らしている。
だが、なぜか暗く感じる。
「これを見てくれる? 今朝仕入れたばかりの野菜がこんな状態になっちゃってるのよ」
「……酷いですね」
箱に戻された野菜は、ほとんどが黒く変色していた。
「けっこう瘴気がきついですね」
「やっぱり? そうかなぁと思っていたのよ!
うちの旦那は飲んだくれだけど野菜を見る目はピカ一だからね。
新鮮さがない野菜を買ってくるわけがないのよ!」
「そうですね。この瘴気の元は……んー、こうも黒くちゃ見づらいわ。真由、かるーく、払って」
「はいよ♪ リクエストは?」
「任せるわ」
真由が選曲したのは、あの名曲『チューリップ』だった。
1分もしないうちに、真咲の目に映る黒い霧が晴れた。
「よし、じゃ、原因解明ということで家の中を回らせて下さい」
そう言って真咲は真由の手を繋いだ。
見ることができない真由も真咲が手を繋ぐことで人外のものを見ることができる。
すぐに原因は特定できた。
居間に置かれている大きな黄色水晶の原石。
「これは?」
「旦那が知り合いから買ってきたものだよ。また変なものを買ってきてさ」
「変なものとはなんだ! これは宝石の原石だぞ! 黄水晶は金運がよくなるって言われていてな……」
「んなもの買わなくてもあんたがパチンコとお酒をやめたらどんなに家計が潤うか」
「……………」
家庭の中で最強なのは主婦である。
「小父さん、これをかなり安い値段で買いました?」
「ああ」
「その人もこれを持っていたくなかったんでしょうね。
まだこの石が来て日数が経っていないうちに異変に気づいたからいいものだけど、
そのままずっと持っていたら、金運どころか、家族内の誰かが寝込んでましたよ」
小母の冷たい視線に俯く小父。
「この石には、この石に執着している老婆の霊が取り付いているんです」
真咲と真由の目に見えているもの、それは石を抱え込みこちらを睨む老婆の霊だった。
この霊が瘴気を発し、また周囲の瘴気を呼び込んでいたのだ。
真咲はその霊に語りかける。
「杉本梅子さん」
その声は、普段彼女が出している声とは違い、しっとりと深みがあり、また温かだった。
真咲は跪き、老婆へ視線を合わせる。
「とても素敵な石ですね。梅子さんの宝物なんですよね、
どんな時も手放さずに守り通してきた大切な宝物なんですよね?」
思ったよりも素直に老婆は真咲の声を聞き入れてくれている。
「ずっとこの石と一緒にいたい気持ちは分ります。
でも、杉本梅子はこの世にいるべき存在ではないことは分っているはずです。
さぁ、石から手を離してください。私達があなたへ進む道を開きましょう」
老婆は石から手を離さない。
「この石はこちらのご夫妻が大切にします。あなたの心残りはありません」
八百屋の夫妻は揃って石の方へ頭を下げた。
老婆は夫妻を見つめたのち、立ち上がった。
真咲と真由は手を繋ぎ、円を作った。
「「使者舞い降りて 天の国 いざ扉開かん!」」
除霊を完了し、双子は居間で黄色水晶を眺めながら芋羊羹をご馳走になった。
ちなみに、小父は反省をさせられている。
「家全体を確認しましたが、異穴もないし、霊道がずれてこの家に入っているわけでもないし、
やっぱり原因はあの石に憑いた老婆の念から来るものでした」
「あの石はどうしたらいい?」
「そのままでいーよ。もうおばあちゃんはいなくなったし、きちんと浄化もしたから、大丈夫!」
「大切にしてあげて下さい」
「ありがとう、真咲ちゃん、真由ちゃん。いつもすまないね」
「いえいえ、お互い様ですって」
「こちらこそ、おいしい芋羊羹ありがとー。お土産にもらえると、今なら洩れなく僕の歌がついてくるよー」
「こら、真由!」
真咲に拳骨で頭を殴られ、涙する真由。
「ぼ……暴力反対………」
明るくなった居間に笑い声が溢れた。
「「これからもご贔屓に!」」
双子はわずかな謝礼を手にして八百屋を後にした。
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