双子物語B







トラックが通ればギシギシと揺れる築20年の古アパート。
2階の1室が双子達の「住めば都」の都だ。
鍵穴に鍵を差し込んだ真咲の手が一瞬止まる。

「やな予感がする……」

息を吸って吐いてドアを開ける。
電気をつけて、

「やっぱり!!!」

真咲は叫んだ。

「どうしたの? ……あ、パパの気配」

真咲の後から室内を覗き込んだ真由は、父親の気配を感じて目を潤ませた。
朔良家は父親と双子の三人家族である。
一家の大黒柱である父親は頻繁に修行の旅に出ており、まったくと言っていいほど家に帰ってこない。

「パパに会いたかったよぉ」
「何呑気なこと言ってんの! 炊飯器にご飯ないし、あー、冷蔵庫もからっぽだわ。
 お願い!……ここも、ここも……ぎゃーーー!!! 隠しておいたお金が全部なくなってるーーー!」
「……………やっぱり?」
「あの不良中年オヤジがぁぁぁ!!! 実の娘達を飢えさせるつもりかぁ!!!!」
「………明日からお粥?」
「しばらくお粥ね。明日、お願いして、お給料前借するしかないわね。
明日は八百屋の小父さんが後で野菜を運んでくれるって言うし……どうにかなりそうね。
とりあえず、今日は寝る!」
「………お腹空いたよぉ」
「あたしもよ」

真咲と真由は溜息をつき、テーブルの上の紙人形を見た。

「朔良真咲」
「朔良真由」
「「解」」

紙人形が手を上げた。

『やぁ』

それは、

『愛しの娘達よ』

父親が残した式神。

双子の父親は全国を放浪している怨冥士である。
怨冥士とは、怨念を浄化したり、常世に住む鬼が、人間の住まう世界へ干渉してくるのを防いだりする、
この世の理の守り手である。
ただし、怨冥士協会の暁星会に属していない双子の父親は『なんちゃって』という肩書きがつくのだが。

『心配しなくてもいいよ。パパリンは元気だ』
「……心配なのはあたし達これからの生活よ」
『娘達もきっと元気だろうと、パパリンは……』
「僕お腹空いてヘニョヘニョだよ……こういう時、僕はカバ夫君になりたいと思うよ。
カバ男君なら、アンパンマンが顔を分けてくれるからね」
「真由、現実を見なさい」
『妄想してるよ』
「「……………」」
『あ、違った。信じてるよ』
「信じなくていいから、金をくれ」
「真咲ちゃんがぐれちゃったよぉ!」

というように、暫し、噛みあわないコントが続く。

コントが一通り終ると、父親のメッセージを忠実に再現している式神はある片田舎の孤児院の話を語り出した。 
善意の塊の院長、嵩む孤児院の維持費。
真咲は目を潤ませ、真由はぐすんと鼻を鳴らした。

『というわけで、借金を肩代わりすることになった』
「「………へ?」」

真由が大きく目を見開く。
真咲の目が釣りあがる。

「ちょっと待てぇ! そんなお金がどこにある!」
『もちろん、パパリンはそんなお金がないから知人に貸してもらったよ。
 じーつーは、明日がその借金の返済期限なんだけどな、あの馬が、あの馬がぁぁぁ!!!』
「………もしかして」
「隠して置いたお金を全部競馬に当てた………?」
『ごめんしゃいって謝っておいてくれるかなー。
 ほら、むさいオヤジよりも若くてかわいい子が謝った方があいつも嬉しいだろうし、
 ってか、きっと見逃してくれるだろうしぃ。
 というわけで、父は南へ旅に出る。桜前線とともに帰ってくる予定だ。
 じゃ、娘達、達者でな〜〜〜!』
 紙人形がポンと音を立て、紙へと戻る。

そこには、明日謝り行かなければならない家までの地図が乗っていた。

「こんのぉ、クソオヤジぃぃぃ!!!」
「お腹空いたよぉぉ!!!」

真咲はブチ切れ、真由は泣き声を上げた。






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