双子物語C







翌日、双子は東京と埼玉の県境にある自然豊かな出市にいた。

電車を2本乗り換え到着したのはいいが、父親からの地図には、
駅と書かれた箱からうねった線が山へ延びて、山の手前で、『ココだよー』と書かれている。
山の方角へ向って歩けばいいのかもしれないが、あまりにも簡略すぎて不安だ。

駅員さんに聞いてみると、

「四方院様の家ならあの山の方向へずっと真っ直ぐ進めばあるよ。
 ここからは6kmあるし、ずっと上り坂だからタクシー呼んだ方がいいよ。
 ここは東京と違ってタクシーは呼ばないと来ないから、はい、タクシーの番号」
「……四方院様? お奉行様? お殿様? どのサマサマ? ふぎゃっ!」

真由は真咲に足を踏まれ、口を噤んだ。

「ありがとうございます。せっかく空気の澄んでいるいいところなので、歩いて行きたいと思います」
「けっこうきついよ?」
「おじさん、ありがとー。でもね、僕たち毎日新聞配達で鍛えてるから大丈夫だよー」

それにね、お金がないんだーと続けようとした真由を察し、真咲は再度真由の足を踏みつけた。
同じところをピンポイントで狙って。

「あの山の方向ですね」
「大きい通りをただ真っ直ぐ行けばいいよ。
 だんだん狭まってくるけど、四方院様のお屋敷は山の麓にあるからね。……本当に大丈夫かい?」
「大丈夫ですよ」

真咲はにっこり微笑えみ、真由を連れて駅を出た。
曇り空が二人を迎えた。

駅から出た途端、真咲は笑顔を消した。
昨夜からずっと真咲は難しい顔をしている。

「真咲ちゃん、どうしたの? 行かないの? タクシー呼ぶの?」
「タクシーを呼ぶわけないじゃない。 真由、ここって何市?」
「ここ? んー……わかんないや」
「東京都出市よ。………四方院という字に聞き覚えはない?」
「しほーいん……響きが高級だね」

真咲は無邪気な真由に肩を落とした。

「暁星会の会長の名前は?」
「えへっ」
「……………四方院王氏よ。
 気が乱れた幕末に四方院家の当主、天下(テンカ)が能力保持者を全国津々浦々から探し育て上げ、
 鬼へ対抗できる能力者集団を設立。
そ れが暁星会の始まりであり、以降、暁星会会長は、四方院本家当主が勤めることになっている。 
 聞いたことあるわよね?」
「………ありますー」
「その四方院本家があるのは出市。
 別の四方院さんに登場して欲しいところだけど、さすがに、四方院という珍しい名字の家が
 二家も出市にあるという偶然は、確率的に低い発生率よね……」
「ま、真咲ちゃん、希望を捨てちゃだめだよ!」
「この場合は、希望よりも覚悟を決める方が健全だわ……。
 あのお気楽トンボ、甲斐性なし、なんちゃって怨冥士の父さんが、なぜ四方院サマと面識があって、
 さらにお金を借りれたのかが謎だけどね。さ、走るわよ。修行修行!」
「真咲ちゃん切り替え早いよ!」

真咲が駆け出し、真由がその後を追った。
目印となる山は間近に見えるが、実際は随分遠い。
だた広い真っ直ぐな道を二人は走る。
途中、バスが二台の二人を抜かしても、6つ目のバス停留所を通り過ぎても、
上り坂に差し掛かっても二人のペースは落ちることはなかった。
驚異的な体力だ。
道は細くなり、アスファルトの引かれていない山道に入る。
二人はスピードを弱めた。
先週は全国的に雪模様だったが、その時のものだろうか?
道の端々に雪が残っている。
上へ上がることに、雪の量は多くなっていた。

「「あ……」」

雪が降り始めた。









一人の青年が縁側に座っていた。

青年は素足を無造作に石の上へ投げ出していた。
袴姿の青年は凍てつく空気の中、震えることなくそこにいた。
合わせた襟元から伸びる首は縮こまることなく、
表情を削ぎ落した秀麗な顔立ちと相まって彫刻のようである。

うぐいすが梅の花を啄む。
飛び立つ。
青年の肩へ降り、身繕いをする。

不意に青年の口元が歪んだ。

うぐいすはすぐさま羽を羽ばたかせ飛んで行った。

笑みを浮かべたまま、青年は呪文を唱える。
手が目まぐるしく印を組む。


山の天気は変化が早く、空は曇り雪がちらつき始めた。






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