今のところ無題〜〜〜題名募集中〜♪ 1







学生達が楽しみにしている昼休み。
もっとも騒がしいはずの時間に、二年A組はなぜかひっそりと静まり返っていた。
緊迫した空気さえ漂っている。
その原因は真剣な顔をして、とある問題に取り掛かっている双子だろう。
平和な国の女子高校生が見事な殺気を放射状に放っている。
双方の額には若い娘にそぐわない皺が寄っていた。

彼女達はただの双子ではなかった。
父は天才と言われる陰陽師であり、彼女達自身も立派な陰陽師だった。
生まれてまだ四半世紀も経っていないが、浄霊した霊体は百を超え、
退治もしくは封じた鬼は十数体に及び、自由自在に式神を作成し操ることができる。
類稀なる能力と、初めて浄霊したのが小学生の時という10年近い経験値を持っている、
ウルトラハイパーな双子達なのだ。

現在、彼女達は霊体と対峙しているわけではない。
そもそもこの学校の霊達は双子達に畏怖の念を抱いており、近づいてこない。
ちゃんと新参者にも触らぬ戌井姉妹に祟りなし、と忠告しているらしい。
そんな愉快なお化け事情は置いておくとして……。

「あー、やになっちゃう!」
肩甲骨を覆う長い黒髪が印象的な少女、真咲は電卓をガチャガチャと鳴らしていた指を止めた。
そのまま机に突っ伏す。
「やば、ちょびやば、超やば、やばいを超えてデンジャラス……ど、どっち?」
と恐る恐る尋ねたのは戌井家の双子の片割れ、真由である。
一卵性の双子だけあって、真由と真咲の顔立ちは非常によく似ている。
が、長い髪に黙っていれば女らしく見える真咲と違い、
真由は襟足に後ろ髪がつくぐらいのボブショートで、言動や行動は男の子っぽくやんちゃさが目立つ。
性格からか、雰囲気が違う二人を見分けるのは容易だ。
真咲は無表情のまま、真由に肩を竦めて見せた。
「来月分の家賃、払えないわ……」
「僕達家なき子?」
真由はウルウルの眼差しで近くにいるクラスメイトを睨んだ、もしくは見つめた。
「同情するなら金くれよ!」
つかさず真咲が真由の頭を叩く。
「痛いよぉ」
真由の顔がふにゅっと歪んだ。
「かわいいー」
うっとりとした呟きとともに
「ふぎゃっ……絵理ちゃん苦しいよー」
双子の共通の友人である、浅野絵理が真由に抱きつく。
Eカップの胸に押さえ込まれ真由はもがいた。
男だったら鼻血ものだが女の真由としては苦しいばかりである。
「真咲、これ頂戴v」
「タダ?」
「分かった、これで……単位は万よ」
絵理は真由を腕(胸?)に閉じ込めたまま、指を五本立てた。
「ふっ、話しにならないわね……」
「じゃ、倍の十万よ!」
絵理の胸の中で固まっている真由。
「………まだまだね」
「あたしは十五で!」
ノリが良いクラスメイトが割り込む。
「十五、十五、もう一声!」
参加者が増え、十八、二十と金額が釣り上がっていく。
「うわぁぁん、法律で人身販売は禁止されてるんだよー」
「あら、そうだったかしら」
真咲は極悪なことを言い、ほほほと笑った。
「真咲ちゃん……僕、いらない子なの?」
真由の顔がうりゅっと崩れる。
眼には涙が溜まっている。
1回の瞬きで頬を滑り落ちそうだ。
「真咲、泣かすなよなっ!」
やけに盛り上がっているオークションを眺めていた男子どもが野次る。
「うるさいっ! 今晩、金縛りにかけるからね!」
と恐ろしい脅し文句で男子を黙らせ、真咲は慌て、今にも泣き出しそうな真由の頭を撫ぜる。
「冗談よ、冗談!」
「冗談?」
「ええ冗談よ。だいたいそんな大金、学生が払えるわけがないでしょ」
「んー、ママに言えば出してもらえる気が……」
家族全員が可愛い物好きな絵理の言葉に、真由は肩を震わせ恨めしそうに真咲を見つめる。
「売るわけないでしょ!」
「真咲ちゃんどうして目を逸らすの?」
「そ、逸らしてないわよ……。真由はあたしの大切な半身なんだから。ずっと一緒。ね?」
「真咲ちゃん……」
そんな麗しい姉妹愛に絵里が割り込む。
「…………真由、うちに来たら毎日お肉食べれるよぉ」
「ホント!?」
いきなり真由の顔が輝いた。
「コラコラ……」
どうせうちではお肉は月二回ですよ、と真咲は少しやさぐれる。
だが、真由はきっぱりとその誘惑を振り切った。
「お肉は魅力的だけど、お肉より真咲ちゃんが大好きだから」
真由が真咲ににっこり笑いかける。今度は真咲が目を潤ませる番だった。
「真由……」
「真咲ちゃん!」
仲良しこよしの双子である。
「あんた肉と同じ立場で比べられてるのよ……じゃなくて」
絵理は一番初めに自分が何を言おうとしていたかを、そこでやっと思い出した。

「ねぇねぇ、お金欲しいんだったら、バイトしない?」
「バイト?」
「うん。あたし、叔父さんのところでバイトしてるんだけどね、
 ゴールデンウィーク海外に行くヤツがいてさ、人手が足りないの。
 だからゴールデンウィークだけその子達の代わりに入ってくれないかなぁ?
 丁度ね、その子達も双子なんだけど家族旅行で一気に二人抜けちゃうのよ。
 元々雇っている人数も少ないし……ね、お願い。たっぷりとバイト代も出るからさ。
 結構な高時給なのよ、叔父さんのとこ」
高時給という言葉に反応しつつ、
「………だめよ。無理」
力なく、真咲は首を横に振った。
バイト、できることならやりたい。
福沢さんが一枚でも来てくれれば超極貧生活に足を突っ込まなくてもすむのだ。
しかし、戌井家の双子は、学生と陰陽師の二束草鞋を履いている。
風水鑑定や除霊といった単発の内容から、式神スピリットガードとという式神を派遣し、
契約者を日々の災害や穢れから遠ざける長期的な内容まである。
時折、式神だけでは対応できない事態が発生することがあるため、
バイトをしてしまうといざという時に駆けつけられなくなってしまう。
陰陽師として、プロとしてお金を貰っている以上、中途半端な真似をするわけにはいかない。
「叔父さんのところ通常は時給千円なんだけど、休日は時給アップで1,200円なんだ。
 一日八時間として、9,600千円。二人で19,200円、一日でね」
うっ、真咲は目を泳がせた。
頭の中で、一万円札と六枚の千円札がふよふよと浮いている。
もう一押しだ、と絵里はにんまりと笑う。
「ゴールデンウィークの4月28日、29日、30日、5月3日、4日、5日、6日。
 全部入ってくれたら134,400円。プラス、昼食付よ!」
「じゅ……じゅうさんまんえん………」
「ご……ご飯………」
二人の心が、沸騰したやかんの蓋のように揺れ動く。

自分達の力を過信して命に関わるほどの危機を招いたことにより、
現在、双子は罰として霊能力を封じ込められている。
イコール、今月はお仕事をすることができず、まったくと言っていい程収入がない状態だ。
ちなみに、『まったくといっていいほどない収入』というのは、
慈善業大好きで、さらに気ままに全国各地を放浪し気ままに家に帰って来て、
もらってきた温泉饅頭をお土産に渡すような父親の稼ぎだ。

「緊急事態にはバイト、抜け出してもいいから。叔父さんにはあたしから話しておくわ」
「「やるっ!」」
好条件に双子は飛びついた。

「ちなみに、なんのバイト?」
真咲の質問に、絵里は満面の笑みで答えた。
「ウェイトレスのバイトよ」

 




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