4月28日晴天。
ただ今の時刻は8時。
双子は絵里に連れられ、本日から1週間程度アルバイトするお店の前にいた。
ちなみに、お店がある場所は秋葉原。
海外へも名を響かせる、あのAKIHABARAである。
真由がドアについている天使を象った銀色のノッカーに反応した。
「かわいいねー。僕、トントンしたい」
「真由、ストップ! ね、絵里、これ高い?」
「ふ、さすが真咲ね。銀製品よ。オークションで競り落としたみたいだけど、
その時の価格は確か30万ちょいだったかな」
真由は天使に伸ばした手を引っ込めて、背中の後ろに回した。
絵里はそのノッカーを叩くことなく、鍵を開け双子を店の中へ招きいれた。
「はい、どうぞ〜『お帰りなさいませ』ってね」
細長いビルの中にある店内は狭かった。
亜麻色の艶感が出ているフローリングの床の上には、
4人用、2人用のテーブルが合わせて5つ。
カウンターの前に椅子が4つと、最大18人しか収容できない。
とはいえ、テーブルといい、刺繍の入ったクッション&肘掛付きの椅子といい、
和洋折衷な内装といい、まるで旧○○邸の一室である。
品よく高級感が漂っている。
「可愛い〜」
と真由が向ったのは出窓に飾られてる花模様のランタン。
「あ、真由ちゃん、触ってもいいけど注意してね。それ、ティファニーだから」
「………真由、不本意にあっちこっち触らないよね」
「……………了解であります」
下手したら生活費を稼ぐどころか借金を背負ってしまう。
双子は気を引き締めた。
「お店の説明をするわね。まず、お店の名前は『家路』」
「いい名前ね」
「カフェ部分は1階と2階。
でも、1階と2階では雰囲気も違うし、入り口も別だし、ノリも出す料理も違うから、
違うお店みたいなものよ。
キャストはローテーションで1階行ったり2階行ったりするけどね。
ちなみに、1階は高級感と居心地のよさが売りよ。
ゆっくりまったり過ごしたいお客さんが来るわ。2階へ行くわよ」
客用のドアとは逆側に従業員出入り用のドアがある。
そこを出ると非常用階段とエレベータがある。
三人は非常階段を上がった。
1階部分と2階部分の面積は変わらないはずであるが、
大きな窓や、壁一面の鏡により、2階は広く見える。
1階のようにカウンターはない。その代わり一部高くなっている場所があった。
その場所を中心に、白と水色のテーブルが点々と置かれている。
「2階はカフェの他にステージをやっているの」
「ステージ?」
「そう。初めは、お店は1階だけで、2階は調理場として使われていたの。
うちにアイドル志望の女の子がいてね、
お客さんからも要望が出たからステージを作っちゃったんだよね……。
ステージは1日1回。休日は2回行ってるわ。
あとはお客さんと交流したり……
まぁ、ここは賑やかに楽しく過ごすところって感じかな。次は行きましょ」
従業員用のドアから外に出て、今度はエレベータに乗った。
「3階は更衣室とキッチンになっているの。
4階は事務所兼叔父の住処。まずは叔父を紹介するわ」
4階。普通のスチールドアの前で絵里は双子を振り返った。
「………引かないでね? や、逃げないでね?」
なんとなく逃げたくなった双子であった。
「どうぞ〜」
絵里は鍵を開けドアを開き、逃走防止のためか、先に双子を中へ入れた。
「…………………」
「かわいい女の子がいっぱいだねー!」
真由がそう言ったのは、生身の人間ではない。
玄関には、双子のウエスト位置より高さがあるアニメキャラの人形が2体。
廊下に貼られたアニメキャラのポスター。
ポスターはきちんとビニールで覆われている。
絵里は玄関正面の部屋、リビングに双子を案内した。
お店と違って、4階は住居空間になっている。
リビングにはキッチンがあり、食器棚があり、テーブルと椅子が置いてある。
そして、大きなやっぱりアニメキャラのジグゾーパズルが飾られており、
飾り棚にもアニメキャラの人形や時計等のグッツが等間隔で置かれていた。
「ちょっと待ってね。逃げないでね」
再度念を押し、絵里はリビングを出て行った。
怒鳴り声と「ワァァァ」と叫んでいる男の人の声が聞こえた。
叫んでいる男の人が絵里の叔父なのだろう。
「真由、逃げてもいいと思う?」
「………絵里ちゃんが怖いよ?」
「「……………」」
リビングのドアが開いた。
逃げることを考えていた双子は反射的に肩を上下させた。
「お待たせ〜。どうしたの??」
「な、なんでもないわ!」
双子は首を激しく横に振りながら絵里の方を向いた。
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