DARK HALF2−1







「………んー…?」
一瞬、自分がどこにいるか分からなくなって、あたしは瞳を開けた。
「……あ、そっか…」
夢から覚めたばかりで少し寝惚けてしまったらしい。

今あたし達がいるのは、ルカが見つけた小屋だ。
眠る前に今日の出来事を話した後、今夜はここで過ごして、
明日から南に進んでウェルハーンを抜けようって決めたんだっけ。
そんな事を考えながらふと辺りを見ると、窓から月明かりがほんのりと差し込んで、
闇に慣れたあたしの目に、ぼんやりとルカの寝顔が見えた。

「………ぷっ……くっ……」
危うく吹き出すとこだった。
ルカの寝顔をまじまじと眺めたのは初めてだけど、
もしかして普段からこんな顔して眠ってるの?
こんな顔ってのは、眉間に皺を寄せて、今にも歯軋りを始めそうなかなり渋い顔。
きっと夢の中でもあたしやレキ相手に怒ってるんだろうな。
話を聞いた後のルカを宥めるの大変だったもん。

『天馬騎士団にケンカを売ったのか!?それは即ちウェルハーンを敵にしたと言う事か!?
お前達は一体何を考えている!!どうせ深く考えないで動いた結果そうなったんだろう?
これに懲りたら少しは考えて動け!!』

そう一息で言い切って、いつも以上に鋭い視線を向けてきたし。
ルカっていっつも怒ってばっかだけど疲れないのかな?
まあ、怒る原因の大半はあたしとレキなんだけど…。

「………あれ?」
その時、レキの姿がそこにない事に気付いた。

「………?」
ルカを起こさない様にそっと小屋から外に出ると、空には丸い翠月(ユイエ)が輝いている。
今は紅月(イルファ)と蒼月(ラシュカ)は見えないみたいだ。
「目、覚めたのか?」
声のした方へ視線を向けると、小屋の傍らの草地に横たわるレキと目が合った。
「うん。何か懐かしい夢見てね。それで目が覚めちゃった」
「懐かしい夢?」

「そう。レキと初めて会った時の」

傍らに腰を下ろしたあたしに、レキは首を傾げた。
不思議そうにあたしに向けられたレキの、眼帯を外し露になっている金色の左目が、
月の光を弾いてきらきらと輝いている。

「懐かしいって言ったって…あれから二ヵ月くらいだろ?」
「ま、そうなんだけど。でも、何かレキと会ったのって
もうずっと前の様な気がするんだよねー。この二ヵ月、トラブルまみれだったからかな?」
それを聞いて、レキは子供の様ににっと笑った。
「セリア、トラブルに首突っ込むの好きだもんなー」
「そんな事ないわよ!絶対レキの方があたしよりトラブルに首突っ込むの好きだもん!」
「そうか?」
「今日だって、ジュリーの悲鳴聞いて、あたしより先に走って行ったじゃない!」
ちょっとムキになって反論するあたしを見て、レキは笑いだした。
「何よ。あたし間違った事言ってないわよ」
「あははは、たしかに俺の方が先だったな。…そうか。セリアは首を突っ込むより、
トラブルを大きくする方が得意だったよな」
「失礼な事言わない!」
横たわったまま、レキはやれやれとばかりに首を横に振る。
「自覚がないのも問題だなー」
ちょっとムカっとくるなー、その態度。

「具体的に例を挙げようか?ある町で一人で歩いてる時、ぶつかった酔っ払いに絡まれて
キレたセリアはそいつに『触らないで!あたしはあんた達の相手をするほどヒマじゃないの。
昼間っから酔ってる様なヤツは真面目に生きている人達にとって迷惑なの。
誰の目にも届かないとこに消えなさい。目障りよ!』と言い放った」

あー…。
確かにそんな事あったあった。

確かにこんなに華奢で可憐な女の子がいたら声掛けたくなるのも分かるけど、
その男って下品な事ばっか言う上に馴々しくあたしの自慢の髪に触ろうとしたんだもん。
今では肩までの長さしかないけど、その頃は腰の辺りまであってポニーテールに
結んでたんだよね。

「その台詞に逆ギレした酔っ払いが刃物を持ち出して騒ぎになっちゃったせいで、
結局町にいられなくなってその日は野宿する事になったんだよな」

ん?

「ちょっと。その言い方だと全部あたしのせいみたいじゃない!
野宿するハメになったのはレキが原因だったでしょ!」

そう、あの時たしかにあたしは酔っ払いに刃物を向けられた。
けど、その程度の事はその男達にとって、多分そんなに珍しくない行為だったのだろう。
周りの人達は気の毒にって感じの表情を浮かべるだけで、遠巻きに見ているだけだった。
そんな時、仲裁をしようとしたのか、レキが眼帯をしないで
素顔のまんまほいほい出てきたからさあ大変。
途端に『ダークハーフだーっ!?』って騒ぎは激化。
そのせいであたし達は町にいられなくなったのだ。

「そうだっけー?」

ついつい忘れてしまうけど、こんな人畜無害そうに見えて、レキは過去に世界を滅ぼそうとしたって
言われてる魔王の封印を解くって言われてる『ダークハーフ』なのよねー。
そりゃ大騒ぎになるって。
あんまり知られてないけど、ダークハーフって正しくは魔王の魂の片割れと
記憶を宿した人間の事なんだけどね。

「とにかく、あれはあたしが悪いんじゃないもん。眼帯をしなかったレキが悪いもん」
あたしの言葉にレキは苦笑いを浮かべた。
「そう言うんならセリアも眼帯を巻いてみろよ。あれ巻くと片目しか見えないから
距離感掴みにくいし、暑いし、かなりうっとおしいんだぞ?」
「いやよ。可愛い顔をこんな不粋な布で隠したら勿体ないじゃない!」
「………自意識過剰…」
「何か言った?」
「別に?」
「………ふふふふ」
「…あははは」
「………ふう。まあいいわ。ところで、さっき話した時に聞き忘れちゃってたんだけど、
レキ昼間会った天馬騎士団の団長さんの名前聞いた時何か反応してたよね?あの人の事知ってたの?」
ちょっと驚いた様な素振りの後、レキはふっと微笑みを浮かべた。

「……あの団長自身は知らない。しかし、ベルディットと言う名は私にとって懐かしい名前なんだ」


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