DARK HALF2−3







「セリアは女神と三人の娘が世界を創った後どうしたかは知ってる?」
「それなら…『女神は天へ昇りそこより命の営みを見守り、三人の女神の娘は
地上で人々と共に暮らし始めた。
そして娘達は人との間に子を為し、その子等が三大国家の初代国王となった』ってやつでしょ?
本当か嘘か知らないけど」


レキはこくりと頷いた。

「多分本当だと私は思うよ。女神が力を持たぬ者として創った人間の中に、
力を…神術を使える者が少なからず存在するのがその証じゃないかな。
…それに私達は知っている。彼女は確かにその血が流れている事を体現している」


その言葉に一人の少女の姿が頭に浮かんだ。
女神がそうである様に、女神の娘が力を使う際にそう変化する様に、
その少女は力を解放した時、髪は白く、瞳は銀へと変わる。

神話に残る女神と同じ姿へと。

「ま、確かにあれは本物だもんね。じゃああの神話は真実って事ね」
レキはまた頷いた。
「そう。でもその神話には実は続きがあってね」
続き?
そんなのあたしは聞いた事がない。
「つまり、それが忘れられた神話って事よね?」
「その通りだ。その話はある一族が代々語り継いで残してきた伝承で、
間違いなく真実を伝えている」

「何で真実って言い切れるのよ」
「話を聞けばわかるよ。『永き時を女神は一人で天より命の営みを見守っていたが、
ある時気紛れで人に身をやつし地上に降り立った。
そして、その地で一人の男と巡り合った』」

「もしかして…その人の名前が?」

「『男の名はシェルン。
男は出会った女が女神と知らずに互いに引かれ愛し合った。
だがある時、魔物に襲われ瀕死の傷を負った男を助ける為に女神はその力を使った。
露になった白い髪と銀の瞳を見て、男は自身が愛した女の正体を知り、苦悩した…』」

そこでレキは言葉を切り、夜空を見上げた。
「…それで?」

先を促すと視線をあたしに戻して続きを語り始める。

「『苦悩した結果、男は女神に別れを告げた。
女神を想い、愛するが故に選んだ答えだった。
男は自分の様なただの人間と女神が共に生きるという事が、
世界から女神の愛を取り上げ独占する、罪深い行為だと思い選ぶ事が出来なかったのだった』
…この時男が女神と共に生きる道を選んでいたら、今の世界はどんな風に
なっていただろうね…」


そう言って一つ息を吐いたレキは、何だか自嘲気味な苦笑を浮かべていた。

「『しかし女神は男の答えを聞き、自身が力を持つ神の身である所為で
男に拒絶されたのだと思いこみ、女神は決断を下した。神である身を捨てる事を…。
女神は自らの手でもう片方の掌にそっと刄を滑らせ、溢れ流れた血を凝縮し、
赤ん坊の拳程の大きさの赤い石を創りだした。
そしてそれを男に差し出してこう言った。
『貴方が私をまだ少しでも愛していてくれるのならばこれを受け取って下さい』
男は女神の決断を知る由もなく、別れの哀しみに打ち拉がれながら石を受け取った。
それを見て、女神は微笑みながら眩い光となった。
光は弾けて世界中に一瞬で広がり、女神はそのままその姿を消した』」


そこまで聞いて、あたしは気になった事を問い掛けてみた。
「…結局その石って何だったの?」
「『女神の姿が消えた瞬間、石は赤い光を放ち男の体に吸い込まれた。
その時男は唐突に理解してしまった。
石は女神の血を核にして女神の力そのものを結晶化した物だと。
知る筈もない知識が頭に流れこんでくる恐怖と、肉体が変化を遂げる苦痛に男は叫んだ。
それはほんの一瞬の事だったかもしれない。
しかしあまりにも想像を絶する苦しみに男にはそれが何時間にも感じられた。
時が過ぎ、男が我に返った時には既に何もかもが取り返しのつかない事になっていた…』」


レキが語るに従って、あたしにも何故これが忘れられた神話となってしまったのか、
やっと理解出来てきた。


……女神はもう……

「『男は何もかもが嘘であって欲しい…夢であって欲しいと願いながら鏡を覗いた。
そして、そこに人では無くなった自分の姿を見てしまった。
髪は白く、瞳は銀色に染まり、額には先程の赤い石が一部を見せて埋まっている。
何より背中に生えた竜の翼が人ならざる者の証だとしか男には思えなかった。
流れ込んだ知識から自分がどうなってしまったのか理解は出来た。
それは、女神の力をその身に取り込んでしまったが為に起こった変化。
女神を愛したが故に、力を託されてしまった男は、女神が世界から消えた今、
この世で一番の力を持った存在となってしまっていた。
しかし、男には女神が人の姿をして転生をしてくる事が解っていた。
その事も女神の残した知識の中にあったからだった。
女神の器と成れる素質を持った人間が産まれるのはおよそ千年に一度。
この力はそれが産まれて来るのを待ってから返そうと決め、男は人知れず姿を消した。
そして、不思議な事にその日から太陽の名がシェルンだと人々の脳裏に刻まれて、
誰もそれを不思議とは思う事もなかった…』」


長い話を終え、レキは一息吐いた。
「太陽の名前の由来の話はこれで終わり」

あたしは分からなかった。
否、分からなくなった。

「つまり…この話によると女神が人間の男と恋に落ちて、神だから結ばれる事が出来ないって
考えて、人間になろうって自殺したって事なんでしょ?」

「………まあ、そうとも言うね」
身も蓋もないあたしの言葉にレキはちょっと呆れてる?

「女神が人間として産まれて来るのは千年後、で、それを待って力を返す?
そんな事できるの?の前に千年もその人生きてるの?てゆーか第一本当に産まれてきたのが
女神だって見分けられるの?で、結局どうなったの?」

少々混乱気味でまくしたてるあたしを、レキは微笑みながら見ていた。
「セリア、少し落ち着いたら?それに質問は一つ一つしてくれた方が答えやすいかな」
むー。
「あたしはちゃんと落ち着いてるもん!」
「そう?なら聞きたい事があるなら言って。何から聞きたい?」

 




前へ   次へ




Home   Novel



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送