DARK HALF2−4







「んー。まず何からかな?
 えー、じゃあそのシェルンって人は千年も待つ事ができたの?
 人間って長生きしても百年くらいでしょ?聞けば魔族だってそう変わらないって話だし。
 それとも女神の力で寿命がばばーんって延びたとか?」
「…はっきり結論を言ってしまうと、彼は待つ事はできなかった。
 たしかに女神の力で変化した彼の寿命は人より長くなったけど、
 それでも女神に遠く及ばず長くても五百年。
 もし誰かに力を譲り渡したとしたら、その時点で人に戻り人としての寿命に縛られる事に
 なるからね」

女神に遠く及ばず長くても五百年ね…。
あたしだったらそんな長い刻を一人で行きてくのはイヤだなー。

「あれ?今、女神の力を誰かに譲り渡すって言ったけど、
 それってそんな簡単に受け渡しできるものなの?」
「渡すだけならね。だけど、受け入れる側が条件を満たしていないと力に拒絶されて、
 運が悪ければ命を落とす事になるそうだよ」
「条件?」

あたしはくりんっと首を傾げてみた。

「条件について話す前に、私にこの神話を教えてくれた一族についてを話そうか」
「そうそう、何でその一族だけがこの話を忘れない事にしたのか気になってたんだよねー!」
話に乗ってきたあたしを見て、レキはくすっと微笑みを浮かべた。
「それは長い刻を人知れずひっそりとトランビュノスに暮らしてた一族でね」
「トランビュノスに住んでる人なんていたの!?」

あたしは驚いた。
レキの話には驚かされてばかりだけど、今日の話は一段と驚く事が多い。


『トランビュノス』


それは今あたしがいる『ノルファル大陸』の一部だ。
位置を簡単に説明するなら、まずノルファル大陸を一つのドーナツに例えてみよう。
そして切目が下、右上、左上になる様に三等分に切り分ける。
今、この大陸は大体そんな風に三つの国に分かれていて、
ドーナツの上の部分が『ウェルハーン』で右下が『シュラナディ』
左下が『ファールムゥグ』ってな感じ。
そして、ドーナツの穴に充たる部分が『トランビュノス』になる。
当たり前だけど、大陸に穴が空いているワケじゃなくて、実際には鬱蒼とした深い森に囲まれた
山が広がっている。
そこは三国の領地に含まれないどころか、曰くのある土地で、人が立ち入らない、
否、立ち入ってはいけない場所として存在している。

「『トランビュノスは竜の住む地。妄りに立ち入る者は竜の裁きを受けるだろう』って
 言われてるじゃない!?何でその一族ってそんなとこに住んでたりするのよ?」

あたしだったら絶対にそんな物騒なとこには住みたくない!

「竜の住む地って知ってるならトランビュノスがそう呼ばれる様になった理由はわかるよね?」
「そりゃ知ってるわよ。

  『ある時一人の狩人が狩りの途中道に迷ってしまった。
  鬱蒼とした森の中を彷徨う狩人はふとあるはずのない誰かの視線を感じ、
  その方向へと歩いてみた。
  すると、いきなり前触れもなく森が拓け、目の前には川が流れていた。
  それを見つけた狩人は無我夢中で渇きを癒す為に水を啜った。
  その時、先程感じた視線がまだ向けられているのに気付き、
  そちらに目をやった狩人は驚きと恐怖に身を竦ませた。
  狩人が感じた視線の主は竜だった。死を覚悟した狩人に竜は重厚な口調で語り掛けた。
 
  『我はトランビュノス。この地は我が住む地。人が罷り来る事はゆるさん。
   今すぐ立ち去るがよい』

  そう言われた瞬間、狩人は意識が遠くなり、気が付けば森の出口に立っていた。
  人ならざる存在を恐れ、狩人は二度とその地に立ち入る事はなかった』

 って話でしょ。
 で、その話を信じないで森に入って行った何人もの人間が帰ってこなかったって後日談付き。
 だからあそこを竜の名前からトランビュノスって付けて人が立ち入る事が
 禁止されたんだよね?」

レキは頷いた。

「ん?じゃあその一族ってなんでトランビュノスに住んでたりするのよ?
 …もしかして、その一族が竜って事、だったりして?まっさかねー」
「おしい!」
「は?」
おしいって何?
まさか、本当にその一族は竜なの?

「さっき私が話した中のシェルンが変化した姿についての部分を思い出してごらん」

えーと、たしか…。

「髪は白く、瞳は銀色に染まり、額には先程の赤い石が一部を見せて埋まっている。
 何より背中に生えた竜の翼が……って、そういう事なの!?」

そこまで仄めかされたらいくらなんでも気付かないワケはない!

「そう。今セリアが考えた事は多分当たっているよ。
 『シェルン・テュトア・トランビュノス』それがその一族、始まりの人物の名前だ」

人知れず姿を消した男は、ほとんど人がこない深い森で暮らしていた。
それはいいとしても、疑問が残る。

「なんで竜って事になってるのよ!?背中に竜の翼が生えてるからって人と竜を
 普通間違えないでしょ?」
レキは少し考えてる素振りをしている。
「多分、語り継がれる内に大げさになったんじゃないかな?
 ほら、噂には付き物の尾ヒレが付いたってやつ?」
ほー、そうですか。
尾ヒレどころか背ビレに胸ビレまで付いてる気がするのはあたしだけ?
「…まあ、いいけどね」
「何がいいの?」
「それはさて置き。一族って事はシェルンって子供がいたの?」

あたしの質問に、レキはちょっと言いにくそうに口を開いた。

「…いたんじゃない。作ったんだ」

作った?

「条件の前にその一族について話した理由はそれなんだ」
「それ?」
「力を受け入れる事が出来るのはシェルンの血を引く直系のみなんだよ」

シェルンの血を引く直系のみ?
えーっと…。

「っ!じゃあシェルンは力の入れ物として子供を作ったの!?」

もしそうならシェルンってのは人として最低の部類に入る!

「そうじゃない!確かに彼は女神に力を返す為、力を受け継いでくれる子供が
 欲しかったのは事実だ。
 しかし、彼の子を産む事は彼女のたった一つの望みだった。
 だからその望みを叶える為、彼は彼女との間に子を生したんだ」
「…彼女?」

まだあたしの知らない物語の登場人物がいるの?

「狩人によって竜の存在が知れ渡ってから百五十年程後にある流行り病が各地を襲ったんだ。
 彼女が住んでいた村は半数以上の人間が病で命を落としてね。
 何故かその病は竜の仕業だと噂が流れて、竜へ『生け贄』を差し出しす事が決まったんだ。
 そして一人の盲目の少女が生け贄に選ばれた。

 それが彼女だったんだ」

 




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