DARK HALF2−5







生け贄に選ばれた盲目の少女。
その少女がシェルンの子を産んだ?
何で?

「その流行り病で両親を失い、他に身寄りの無い盲目の少女は生け贄になる事を承知して
 森へ入り、そしてシェルンと出会った。
 そして経緯は省くけど、そのままトランビュノスで彼女は死を迎えるまで
 シェルンと共に暮らしたんだ」
「経緯は省くけどって何よ!?」
「……少しは考えてごらんよ。シェルンは生け贄なんか求めたりするわけがない。
 だから彼女がシェルンに殺される筈がない。
 それと彼女は目が見えないから一人で出来る事に限りがある。
 おまけにもう身寄りも無い。そんなまだ十三の少女に
 『竜の元へ行き、お前の命と引き替えにこの病を治めてもらえる様に頼んでこい!』
 なんて言う大人達がいる村に帰りたくなる筈も無いだろう?」

……確かに、あたしなら絶対に帰らない!
それどころか多分竜の元へ行けって事すら無視してどっかに逃げる方法を考えるだろうなぁ。

「それで彼女はシェルンの元で暮らし、十六になった時、彼の子を産む事を望んで、
 それは数年後に叶えられたって話だそうだ」

……十六か。
十六歳は大人と見なされる決断の年だもんね。

どんな事でもいい。
自分が何をしたいか、何をするべきか、自らの心に問い、見つけだした答えを誓う。
そして、その誓いを果たす事を、その為の行動を起こす事を決断するのが十六歳になり、
大人と認められてからの大事な最初の一歩目になる。

あたしは十六になった時、ある目的の為に家出をするって決めたんだよね。
旅に出るって言っても止められる事間違いナシだから、最初っから家出を計画して
誕生日の夜に飛び出したんだっけ。
まだ目的は達してないけど、レキと旅を続けていたら、きっと何とかなる様な気がする。

……でも、レキの、魔王と呼ばれた『レキュアール・セス・アザルフェル』の十六歳の決断って
どんなのだったんだろう?
その内聞いてみたいな…。

「そうやって産まれた子供が十六になった時に、女神の力を受け渡して、
 シェルンはその生涯を閉じた。その子供が彼の子を産みたいと望む女性と出会い、
 子供が産まれ、そして彼らはそれを何度も何度も繰り返しながら、
 女神の力を女神に返す刻を待ち続けていたんだ」
「何度も何度もって、千年経てば女神は人間として産まれてくるんじゃなかったの?
 何でそんなに時間をかけてるのよ?」
レキは肩を竦めて溜め息を吐いた。
「女神が消えて千年が経った時、確かに人の中に女神が転生してきたと思われる少女がいた。
 その子は言葉を喋れる様になるや否や、誰から教わる事もなく神術を操ったと言われる程の
 類い稀な才能を持っていたが、女神としての記憶を一切持っていなかったんだ」

女神としての記憶がなかったら、力を返すって言われても
きっと何の事かワケわかんないだろうなぁ……。

「おまけにその少女はシュラナディの第一位王位継承権の持ち主だったから、
 噂は聞けてもめったに人前に出てこなかったそうだしね」
「うっわー。そんなんでその人が本当に女神の生まれ変わりってわかったの?」
「実際に逢うまでははっきりとわからなかったらしい。
 しかし、逢った瞬間にはっきりと彼女がそうだと、間違いなく女神だった魂を
 その身に宿してるって確信したそうだ」
「そーゆーモノ?」
「一目でも見たらすぐ解る、だそうだよ」
「ふーん」
よくわからないけど、きっと当事者じゃないと理解できない感覚なんだろう。

「それはまあいいとして…。あのね、あたしさっきから不思議だったんだけど、
 何でレキがそんなにその一族について詳しいの?もしかして…」
もしかして、レキもその一族の血を引いてるとか?って考えてるのがわかったのか
レキは苦笑を返す。
「さっき話した私の剣の師匠とその一族の直系が親友だったんだよ。
 若い頃に一緒に旅をした仲間だったんだそうだ。
 だから私も彼からいろんな話を聞かせてもらった」
そう言うとレキはにこっと笑った。
「じゃ、この話はここまで!続きはその内また機会があればね。
 セリアももう一眠りしてきたら?夜の見張りは私がしているから安心して」

その師匠の親友についてももっと聞いてみようとしてるのが思いっきり見透かされてる。
いっつもそうだから何かこうちょっと釈然としないなー。
あたしってそんなに分かりやすい単純な思考の持ち主なの?
いやいや、あたしが単純なんじゃなくて、きっとレキの洞察が鋭いだけなのよ。
うん、きっとそう!

「見張りはするって言うけど、レキも休んだら?きっと見張ってても何にも起きないし、
 眠らないと体に悪いわよー?」
あたしの気を利かせた優しー台詞を聞いてレキは呆れた様に肩を竦めた。
「そうやって油断してた時に限って何かが起きるんだよね。
 この間の野宿の時はセリアが見張りをするって言うから信用して休んでいたら、
 セリア居眠りしちゃって焚き火が消えて魔物に襲われたっけ」

うっ…。
本当の事だから返す言葉もございません。

思わず視線を泳がせるあたしに左手を伸ばし、前髪にすっと指を滑らせたレキは微笑んで
口を開いた。

「それに私の事なら心配しなくても大丈夫だ。今『レキ』はちゃんと眠っているからね」




 




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