DARK HALF2−7








「そうかもしれないけど」
「かもじゃない!」

ルカは首を激しく横に振る。 

「…あの時の僕は、あの御方からセリアとレキの傍をちょろちょろしている邪魔な男を消せ、
 と命を受けていたんだぞ!」
「でもそうしなかったじゃない」
「うっ……」 

固まったルカの顔が赤いのは、興奮してただけではないとあたしは思う。

「……………………んだ」
「ん?」
「あの心配性でお節介なお人好しがルークだったなんて気付かなかったんだ!!」
「お人好しぃ?」 

ルークを形容するのにいまいち似合わない単語に思わず声が出た。

「ちょっと待って。お人好しってルークの事?あれが?」

あたしは脳裏にルークを思い浮べた。 

蒼い髪で緑の瞳の男性、二十一歳。
顔は格好良い部類に入りそうな気もするけど、いつも眉間に皺を寄せていて、
滅多に笑顔を浮かべないのはマイナスだとあたしは思う。
それにたとえごくたまーに笑ったとしても『フッ』とか『ハッ』とか鼻で笑うって言うのか、
まぁそんな感じで、にこっと笑うのなんて幼なじみのあたしですら小さい頃に見たっきりだ。
そういえばそんなとこはルカと近いかも。 

それでいつもあれはダメ、これもダメ、それもダメって口喧しくて、
それによくレキの言動に一々反応してはキレて剣振り回してあっさり避けられてたりもした。

 それにあたしが何か騒ぎに首を突っこんだらすーぐ怒りだしてたなー。

 …あのルークがお人好しねぇ?

 でも、昔は身寄りのない子供達のリーダーみたいな感じで小さい子達の面倒みてたりしたっけ。
たしか…ある人を捜してて道に迷ってたあたしを助けてくれたってのがルークとの出会いだったんだよね。
迎えがくるまで一緒にいてくれたっけ…。

 あれ?
確かに昔のルークはお人好しだった様な…?
今もお人好しなら、もしかしてあたしにだけ厳しかったりするのかなぁ?
何か嫌がられる事したっけ…? 

「あれをお人好しと言わないでどうする!」 

あまりにもきっぱりと言い切るルカに、あたしにだけ厳しいって考えが当たってそうで
ちょっと頭痛がしてきそうだ。 

「二人の間にどんなやりとりがあったからそう言い切れるのか、かなり興味あるわ。
  話す気があるんなら聞きたーい!」
「話す気なんかない!!」 

ルカはあたしから顔が見えない様にそっぽを向いた。
多分、顔が赤くなってるのを見られたくなかったんじゃないかな? 

 

あの御方と呼ばれる人のメッセンジャーとしてあたし達の前に初めて現れたルカと、
家出中の娘を捜す両親に頼まれてあたしを連れ戻しにきたのに、うやむやな内にあたし達の旅に
同行する事にしたルーク。 

あたしの知らない内に二人の間に何があったか聞いていない。
けど、ルカはあたし達の前にルークへの刺客として現れたのに、
それを実行に移す事ができなかったのは確かな事実だった。 

それは、あの御方の命に従う彼の者達には裏切りと映ったのだろう。

だからあの時、制裁の意味を込めてそんなルカもろともルークを消そうとしたのか、
そこに潜んでいたもう一人が魔術を発動させ、影から実体化した短剣が生まれ出て
二人目がけて降り注いだ。
ルークに向かって魔術がくる、そしてもしかしたらルカもそれに巻き込まれるかもしれない
と考えたレキは、相手の魔術が発動する一瞬先に二人の周りに防御の魔術を展開していた。
だからルークもルカもその場で立っているだけでも無傷で済んでいた筈だった。 

しかし、まさか自分ごとルークを殺そうとするなんて思ってもいなかったのだろう。
ルカは混乱してか、魔術を放った、仲間だと思っていた者から離れようとして背を向け走りだし、
結果、防御の魔術の範囲から飛び出す事になってしまった。 

このままだと無防備に曝け出してしまった背に攻撃が当たってしまう! 

そう思った瞬間、そんなルカをルークはその体で盾になり庇った。

それは一瞬の事だった。

ルカを抱き締めたルークの体には幾本もの黒い刄が突き刺さり、
それが弧空へと消えていった途端に傷口から、紅い、紅い鮮血がほとばしり、ルークとルカは紅く染まった。

…あの時、あたしは何もできなかった。

大量の血を流し倒れたルークを救う事も、血に塗れ喚き叫ぶルカを落ち着かせる事も、
魔術を放った者を倒す事も、本当に何もできなかった…。 

悔しかった。

あたしは神術も魔術も使えない。
戦いでも、弓術には少し自信があるけど、接近戦になると途端に足手まといになってしまう。
何かすごい特技があるわけでもない。 

生まれて初めて力が欲しいって願った。

誰かを護る為の力が…。
誰かを救う為の力が…。 

でも願ったくらいで力が手に入るわけない。

やっぱりあたしは何もできなかった。 

レキの一喝でルカは我に返った。
落ち着きを取り戻したルカはその怪我の責任を感じたのか、ルークに治癒の術を使い、
そのおかげでルークは一命を取り留める事ができた。
だけど血が流れすぎたからか、ルークはぼんやりと瞳を開けた後、またすぐに眠りに引き込まれていった。

いくら神術や魔術でも万能ではない。
外見上の傷は塞がっても流れ出た血は戻らない。
もちろん死んだ者を蘇らせる事もできない。

もしそれを成す事ができる者がいたとしたら、
それはきっと女神かそれに匹敵するくらいの力を持つ者しかいないと思う。 

でも、女神はもう存在しない。
女神に匹敵する力を持つ者がいるとも思えない。

やっぱり、死は覆す事のできない絶対なる掟と言っても過言ではないだろう。 

だからこそ、ルークが死ななくて本当によかったって心からそう思って、
癒しの術を使ってくれたルカにあたしは感謝しているのだ。


ルークの事をレキが背負って運んでくれたので、
そのままあたし達はその日の朝に出発した町に引き返した。

その理由は、そこに住んでいる信頼できるある人にルークの体調が元に戻るまでの世話と
伝言をお願いする事を決めたからだった。 

ルークは眠ったままだったし、たとえ目が覚めたとしてもあれだけ血を流してしまったからには
しばらくはふらふらしてる事になるだろうし、何よりもルークはあたし達といたから巻き込まれたんであって、
でなきゃ無関係だった筈なのだ。
だからあたし達の傍にいたらまた命を狙われる事になるかもしれないから、
これ以上旅に付き合わせるわけにはいかないって考えたのだ。 

あの時、眠ったままのルークに何も言わずに出発するのは心苦しかったけど、
目を覚ましてからその事を話したら、絶対に自分を置いていく事を怒るし納得しないし、
挙げ句に無理をしてでもついてこようとするだろうって確信できたから仕方ないと思う。 

…きっと今も怒ってるだろうなぁ。

でも、体調が元に戻ったらファールムゥグに帰って、あたしは目的を果たすまで帰る気はないからと
両親に伝えてくれ、と伝言を残したからあたし達を追い掛けてくる事はないハズ。 

…伝言を伝えたらすぐに追い掛けてきそうな気もするけど。

ルークって生真面目だからなぁ。
あたしを連れて帰れなかった事に責任感じてそうだし。 

そんな感じにあたし達がルークを残して出発したのを見て、
少し離れたとこからずっと付いてきていたルカは躊躇いがちに近づいてきて、ルークの事を聞いてきた。

ルカは主に命令されたのにルークを殺せなくて、怪我を癒して命を救ってくれて、心配までしてくれた。
だから、絶対に根はいい子なんだろうなーって思って、あたしは、その時はまだ名前も知らなかったルカを
旅に誘ってみたのだ。 

あたし達と一緒にいたら危ないのかもしれないけど、裏切り者と見なされて途方に暮れて
今にも泣きだしそうな少女を放っておくなんてできなかったって事もある。 

…本人に言ったら泣きそうだったなんて事実はない!!って言いそうな気もするけどね。

まあ、そんなこんなでルークと入れ替わる様にルカはあたし達の旅に加わったのだった。






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