「……今頃ルーク何してるかなぁ」

あたしの呟きにルカがぴくっと反応する。

わかりやすいなぁ。
なんだかんだ言いながらもルークの事が気になってるみたい。
なんて言うか…微笑ましい？

「………………何を見ている？」
「ルカ」
「………さっきも言ったがそれはわかる。僕は何故また僕を見ているのか聞いているんだ」
「さっきも答えたけど何か喋ってよー」
「……嫌だ」

ルカはふいっとそっぽを向いた。
むー、手強い。
もうちょっとくらいはわかりあいたいんだけどなぁ。

「わかった！
　一方的に喋るのが嫌なら、ルークについてそれぞれ思うところを語ってみよーって事で！」
「はぁっ！？」

あたしの提案にルカは唖然としている。
いい提案だと思うけどなぁ。

「だってルカもルークの事気になってるんでしょ？」
「………………そんな事ない」

あたしは口では否定をしながらも、自分の気持ちに少し戸惑ってるルカを
生暖かい目で見つめながら勝手に話を進める事にした。
そうでもしなきゃ絶対話が進まないもん！

「えーっと、あたしはねぇ、ルークにガミガミ口煩いとことー、
　いっつも眉間に皺よせてばっかなとことー、
　あー、後あたし見て溜め息を吐くの止めてほしーなーって思ってまーす！
　あれって失礼だと思わない？　そのくせ敬語は使うなって言ってるのに
　気を抜いたらかたっくるしい喋り方に戻るのはどーしてよ！？」

そこまで一気に言ってふと我に返った。

あたしが喋るんじゃなくてルカに喋らせるのが目的だったっけ。
んー、ルカが興味持ちそうな話題話題……。

「………こほん。えー、それとおまけ情報ー！彼の趣味は園芸だそうでーす！
　似合わないっていつも笑われるから隠してるんだって」
「あいつが？」

……よしよしこの調子でうまい具合に話に乗ってくるかな？

「……別にあいつに似合わなくはないんじゃないか？」
「似合わないってまでは言わないけどあの仏頂面でどうやって草花に接してるかは
　見てみたいって思う！」
「………仏頂面？」
「やっぱ眉間に皺を寄せてむすっとしながら水やりとかしてたりするのかなぁ？」

ルカはなんだか怪訝そうにしている。

「さっきから思ってたんだが、いったい誰の話をしている？」
「もちろんルークの」
「…………あの男のどこが仏頂面なんだ？」
「……はい？」
「見ているこっちが怒るのが馬鹿馬鹿しくなるくらいにこにこ笑ってばっかりな男じゃないか」
「……………それこそ誰の話よ？」

お互い顔を見合わせて首を傾げた。

「あたしの知ってるルークとルカの知ってるルークって間違いなく同一人物？
　実は別人だったりしない？」
「……僕は目が悪いから……人の顔もかなり近づかないとほとんど見えない。
　だから僕の会った蒼い剣士がルークだったとは僕ははっきりと言いきれない。
　だけどルークの方が僕に気付いたんだから間違いなく同一人物なんだと思う。
　……それとたしか、あの蒼い剣士は白猫を抱いた金髪の女性とはぐれたと言っていたぞ。
　その人を探してるけど見かけなかったかって。今思うと、あれはセリアの事なんだろう？」
「じゃあ何。ルークはあたしの前ではいっつもむすっとしてるのに、
　ルカの前ではにこにこしてたの！？」

あたしは頭を抱えた。

にこにこするルークってどんなの！？
知り合って十二年間そんなの見たことないよー！！

「…………多分、僕は子供扱いされてたんだろうな……」

悩みだすあたしにルカがボソッと呟く。

「子供扱い？」
「………あの扱いは思い出すだけで不愉快だ」

少し拗ねた様にそう言ってルカは目を伏せた。

「？」
「大体だな、よく知らない相手の頭を撫でるなんて、
　相手を子供だと思ってないとできないだろう？
　大人相手にそんな行為をしたら失礼だと普通は思うだろう？それなのに……。
　だからやっぱり僕は子供だと思われてたんだろうな」
「……と言う事はー、頭撫でられたんだ」

頷きながら聞き返したあたしに視線を向け、ルカは自分が言った内容に気付いたのか
はっとした様に立ち上がった。

「…………少し喋りすぎた。こんなに煩くてはレキも休めないだろう。
　僕がいるかぎりセリアが黙る事はなさそうだな。
　少しこの辺りを見回った後に僕も休む事にする。
　見張り引き受けたからにはちゃんとするように」

そう早口で言うや否やルカは身を翻しあたしに背を向けた。
月明かりに照らされた白い姿は遠ざかりたちまち闇に融けていく。

「……………………これって、逃げられたの？」

ルカの突然の行動にしばらくぽかんとしながら後ろ姿が消えた辺りを見ていたあたしが
我に返った時にはすでに遅かった。

「あー、もっと喋ってほしかったのにー」

ルカが自分の事を話すのってあまりないから、話を聞くいい機会だって思ったのにな。
残念。

仕方ない、ルカの言う通りに引き受けたからには真面目に見張りでもしますかー。