DARK HALF2−9





………はぁ」

誰も傍にいない夜の森は耳を澄ますと色々な音が聞こえてくる。

風の音。
木々のざわめき。
鳥のはばたき。
動物や虫の鳴き声。
そして自分の鼓動の音。

空を見上げると翠月が柔らかな光を放っている。

こんな満月を一人で眺めているとあの人の事が脳裏に浮かぶ。

あたしが家出を決めたきっかけの人。
あたしはあの人にもう一度会う為に旅を始めた。

『セリア見てごらん。ここに咲く花はみんなキミと同じ名前なんだよ。
 満月の夜にしか咲かない美しいセリアの花。
 この花畑は僕の秘密の場所なんだけどキミには特別に教えてあげる。
 ……誕生日おめでとう、僕の愛しいセリア』

セリアの花畑の中であたしを抱き締めながら耳元でそう囁いたあの人は、
それから半年もしない内に姿を消し行方不明になった。

どこにも見当たらない大好きなあの人を求めて泣くあたしを先生は一発ひっぱたき、
驚きで泣きやんだところに手がかりを教えてくれた。

あの人はいなくなる何年も前から女神や魔族などに関する神話や伝承などを調べていた、と。
そして、実際に世界を巡り、その地を自分の目で見てみたい、
先生の前でそう常々言っていた、と。

あの人はその望みを叶える為に十六歳になった日に旅に出ていったんだと、
あたしはその時初めて知った。

あたしはあの人がそんな事を望んでいたなんて全く気付いていなかった。

……あたしに気付かせない様に何も告げぬままあの人は行ってしまった。

だからあたしも十六歳になるのを待って旅に出た。

本当はすぐにでも追い掛けて行きたかった。
実際、一度は追い掛けて飛び出したりもした。
だけど、まあ当たり前と言うか、あっさり見つかってすぐに連れ戻された。

そんなわかりやすい行動に出たあたしに先生は助言をくれた。

『あの子を捜しに行きたいなら今はあの子の事を忘れなさい。
 忘れられないなら忘れたフリでもいい。
 セリアさんが大人と見なされる十六歳になる時を迎えて、
 あの子に会いたいと言う気持ちが変わってないのならば女神に誓いなさい。
 あの子を捜す旅に出る事を!……でも、それまではちゃんと忘れたフリをしなさいよ?
 そうすれば周りは油断しますからね。
 今日みたいな愚かな真似はしてはいけません。家出は入念な下準備が必要です。
 脱出経路も荷作りも他人にバレた時点でおしまいですから、
 準備をする時は十分に気を付けるように!
 セリアさんもあの子と同じく優秀な私の可愛い教え子なんですからそれくらい簡単ですよね?』

そう言ってにっとイタズラっぽく笑った先生の顔は今だに忘れられない。

いろんな意味で規格外な先生だったけど本当に感謝している。
先生の助言がなかったら今のあたしはここにいなかったと思う。

『あの人の行方を捜す。そして、どうしてあたしに何も言わずに出ていってしまったのか
 その理由を本人の口から聞く』

あたしは十六歳になった日にそう誓った。

そして家出を実行に移したあたしは下準備の成果もあってか、
見つかる事も連れ戻される事もなく無事に国境沿いの森まで逃げる事ができた。

……その森で魔物に襲われて死ぬーって時にレキに助けられたんだよね。

魔物に襲われたのは全くもって想定外だったけど、旅に出てすぐに伝承の中に存在を語られる
魔王の魂を宿したダークハーフ『レキ』と出会えたのは幸運な事だったと思う。

あの人がまだ神話や伝承を調べているならダークハーフが実在するって知った時に、
きっとこの目で見たいと思い立つハズ。
そうしたらダークハーフに会いにくるあの人と自動的に再会できるかもって思ったし、
何よりも不思議な既視感が気になったと言う事もあって、
あたしは旅に同行させてほしいってとっさにレキに頼んでいた。

あたしの命を助けてくれたし、話した感じでも悪い人には思えなかったから、
あたしの目的の為に彼を利用させてもらう事にしたのだ。

あの人に会いたい。

その想いを叶える為なら、魔王の封印を解いて甦らせるって言われているダークハーフだって
利用してやるって思ったんだ。

でも今はレキを利用しようって考えるのは止めた。

たしかに今でもあの人に会いたいと願う気持ちは変わっていない。
だけどレキの事を知れば知る程、利用しようなんて考えられなくなってきた。

『レキ』は幼さを残した無邪気な笑顔を見せる。
『レキ』は憂いを隠して穏やかに微笑む。

あたしは、相反する二つの表情を見せるレキの事をいつのまにか好きになっている自分に
気付いてしまった。

しかし、これは決して『愛』や『恋』なんかじゃないと思う。
どっちかって言うと『友情』や『親近感』って言葉の方が近い。

それでも好きって事には変わりはない。

だから一方的に利用するのは止めて、理由を話して協力してもらう事にした。

そんな自分勝手で我儘なあたしをレキは最初から
全てを見透かしている様な笑顔を浮かべながら簡単に許してくれた。

そんなハズはないけどレキにじっと見つめられると、何もかも見透かされてる気がする。

だから、あの笑顔を見た時に、レキはもしかして最初からあたしの思惑に
気付いていたのかもって思えたんだ。

例えばあの不思議な既視感の事は誰にも話していないけど、
レキがその事に気付いてたとしてもあたしは驚かない様な気がする。
それどころか、あたしにもわかってないあの不思議な既視感の正体は何なのかって事すら
知ってたりして。

まぁ、そんなのあるわけないけどね。

「…………んー」

背伸びを一つして、さっきルカが降りてきた木にもたれかかり瞳を閉じた。

あの既視感については考えてもわからなそうだから考えるのは止めよう。

それより、明日はいよいよシュラナディ!

レキがダークハーフとなる前に住んでいた国。
あたしはまだ一度も行った事のない国。

だからどんなとこか楽しみにしてるんだ。

瞳を開け、月を見ながらあたしは願った。

明日は今日よりもっともっと良い日でありますよーに!





前へ   第三部へと続く

ここまで読んでくださってありがとうございます。
ようやく二部が終わりました。
今回は名前のみのルーク君もその内登場予定なんでお楽しみに!

三部を早くお届けできる様に頑張りますので、応援よろしくおねがいします。




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