DARK HALF3−1





特に何事もなく、無事にシュラナディに入って四日が過ぎた。

ウェルハーンからシュラナディに抜ける為に端っことはいえトランビュノスを通ったのに
魔物の一匹にも遭遇する事もなく、正直ちょっと拍子抜けって感じだ。

ま、何もないって事はそれはそれでいい事です。


ふと気付けば季節はもうすぐ翠から蒼へ移り変わろうとしている。
どうりで最近じわじわと暑くなり始めてきたわけだ。

『翠』は春、『蒼』は夏、『紅』は秋、『白』は冬。
それとどの季節にも当てはまらない『銀』の月。

各季節がそれぞれ三ヶ月、一月は四週、一週は七日、
銀の月と合わせたら一年は三百六十四日となる。
これがこのリーディアルで使われている暦だ。

きっとどこか別の世界にはこの暦と違った暦を使ってるとこもあるんだろうなー。
一度くらいは見てみたいかも。
でも一年が七百日とかあったら次の誕生日とか年に一度しかない楽しい行事とかが
待ち遠しそうだな。
うん、やっぱ三百六十四日くらいがちょうどいいよね。

まあその事はさて置き、その日のあたし達は、立ち寄った街道添いの町の程々に客のいる食堂で
のんびりとご飯を食べていた。

ちなみにメニューは、あたしが白身魚の香草焼き、レキはグラタン、ルカは生野菜のサラダ、
ソロンは暖めたミルク、ラミは器に水を入れてそれに浸かっていたりする。

「あ、ルカ好き嫌いはダメだぞー」

あたしの視線の先ではルカがサラダのタマネギだけを選り分けて隅っこに
追いやっているところだった。

「…火を通せば食べれる。だが生は嫌いだ。
 セリアが何と言おうと僕はこれを食べるつもりはない」

そう言ってそっぽを向きながらもルカはあたしの皿をフォークで差した。

「そう言うが…セリア、それは何だ?」

差されたあたしの皿にはオレンジ色した物体がいた。

「………ニンジン…」

まさか付け合わせにニンジンのグラッセが付いてくるなんて盲点だよね。
せっかく今までニンジンの入らない料理ばっかり食べてたのに。
どうもこのニンジンってヤツの味は気に食わないのよねー。

そのやり取りを見てレキはくすくす笑っている。

「セリアにはルカに好き嫌いがどうこう言える立場じゃないみたいだな」
「………うぅ。その通りです…」

レキのもっともな指摘がイタイ…。

そんな時、あたしの耳に隣で交されている会話が飛び込んできた。

「ねえ、ちょっと!今何て言ったの!?」

思わず身を乗り出して聞き返すあたしにびっくりしながらも
隣でご飯を食べていた若い男性二人連れはその内容を掻い摘んで話してくれた。

「二ヵ月くらい前だったかファールムゥグのお姫様が家出っつーか、
 この場合城出?をして行方不明って話聞いたことない?
 それで南の方じゃお姫様を捜してあっちの国の兵士とかがよく出入りしてたんだよ」
「一週間程前の事ですが、ここから半日くらい行った『ピュノト』と言う町に
 その捜してた兵士達が告げていた容姿や年の頃の一致する女性がふらりと現れたそうです。
 聞けば姫様本人だって認めたらしいです。
 それでその姫様と言うのは可憐で儚げな絶世の美女だそうで、
 一目くらいは見に行ってみましょうかってさっき話してたんですよ」
「だーかーらー、そう言ってるのはお前だけ!
 俺は『ウンメイのデアイ』ってやつをしに行くんだ!お姫様に気に入られた俺は
 きっと姫様付きの騎士に任命されたりするんだぜ。
 そんでもって『身分の差など関係ありません。わたくしは貴男の事が…』って
 顔を真っ赤にして告白されたりしてな。
 その末にはめでたく結ばれるんだぁ…ってか俺に異国の王族なんて勤まるかなぁ」
「…前から思ってましたが貴方脳に虫湧いてますよね?
 貴方みたいな変人を見初める女性がいるわけありません。
 …と言いますか、一遍程度では貴方の馬鹿は治らないでしょうから百遍程死んでみては?」
「俺のこの魅力がわからないなんてお前、可哀想だなぁ」
「…貴方に哀れまれるくらいでしたら、いっその事その辺りを這いずり回っている蛇に
 頬摺りした方がマシではないかと思います」
「あれ?お前蛇嫌いじゃなかったか?もったいないなー。美味いのに」
「ああいったのを食すのは貴方くらいですよ。あまり近寄らないでください。
 馬鹿が移ったら困りますから」


脱線して口喧嘩(?)を始めた二人をほっといてあたしはレキと視線を交した。

「どーゆー事だと思う?」
「間違いなく偽者だろ」

あたしはその言葉に頷いた。
あたしはその家出姫の事を誰よりもよーく知っていた。
勿論居場所も知ってる。
だから本物なワケありえない。

「それはわかってる。でも何の目的でその名を名乗ってるんだろ?」

首を傾げるあたしに、黙々とサラダを食べていたルカがぼそっと告げた。

「知りたければ直接聞いてみればいいだろう?」
「それもそうね。よーし、これ食べたら早速その町に行ってみよっか!」
「……しかしよりによってピュノトか…」

レキが珍しく浮かない顔をしている。
どうしたんだろ?

「レキ?」
「おっ!?君達もピュノトに行くの?」

いつのまに口喧嘩(?)を止めたのか二人がこっちの話に加わってきた。

「まあ、そのつもりですけど」
「ならそこまで一緒に行かないか?
 俺達男二人連れだから短い間とはいえ女の子が一緒の方が楽しいだろうし、
 旅は道連れって言うだろ」
「ほぇ?」

唐突な申し出に、思わず変な声が洩れた。

男は機嫌よさげににこにこ笑いながら返事を待っている。
この場合どうしたものだろ?




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