DARK HALF5







そんなに遅れたとは思えないのに、レキの姿はまだ見えない。
そのまま走っていると、突然森が途切れて目の前に湖が広がった。
その畔には確かに砦がある。
なんだか、今は炎上しているけど。
多分、問答無用で魔術を放ったのだろう。

「うわぁ、すっごい騒ぎ」
騒ぎの中心にはレキが見える。
もうあらかたの騎士を倒した様で、十人ぐらいしか残っていない。
素早いなぁ。
あたしの出番はさっぱり無いらしい。

レキは残っている騎士達に静かに問い掛けている。
「この中で一番身分が高い者は誰だ?」
その問いに騎士の一人がレキに叫び返している。
「貴様こそ何者だ! 我らがウェルハーン王家直属の天馬騎士団と知っての狼藉か!?」
そう言えば誰もが恐れると思っているのだろうが、レキにはその脅しは無駄だった。
「勿論知ってるよ。だから聞いてるんだろ、この中で一番身分が高い者は誰かって?」
騎士の中から一人が進み出る。
「私がこの隊を率いる者だ」
「た、隊長!」
「君の目的は何なのだ? 我々が何者か知ってこんな狼藉を働くくらいだ。
何か理由があるのだろう?」

隊長とやらはレキの話を聞く気らしい。
「じゃあ、君にお願いするけど……。みんなこのまま帰ってくれない?」
レキの言葉があまりにも思いがけなかったからか、騎士の間から失笑が起こる。
「君は何も言ってるのかね? 我々は王の勅命で動いているのだ。王の命は絶対なのだよ」
レキは頭を軽く振り、そっと眼帯の結び目を解いた。

「その命令自体が間違っていると、君達は思わないのか? 
ダークハーフが現れる前に魔族とその血を引く者を根絶やしにする? 
ふざけるな……。そんな事をしても無駄だよ」

はらりと眼帯が地面に落ちる。
あたしはからはレキの顔は見えないけど、その事実を目の当たりにした騎士達は
驚愕に顔を歪めている。


「もうダークハーフはいるのだから……」

露になった金色の左目でレキはまっすぐ騎士達を見つめる。
「皆そろってなんて顔をしてるんだ?」
「き、貴様は……」
「ああ、そうか、まだ名乗ってなかったね」
レキは薄く笑う。
「私はレキュアール・セス・アザルフェル。お前達が魔王と呼んでいる男本人だ」
その後ぽそりと付け加える。
「まぁ、この体は仮初だけどな」
そう、レキはダークハーフ呼ばれる存在で、その体には封印されてた魔王の魂が
宿っていることをあたしは知っていた。


「どういう事なの? ねぇ、セリアさん!?」
声を掛けられて振り向くと、あたし達を追って来たのかジュリーが立っていた。
「子供たちはどうしたの?」
「まだ隠れるように言っておいたわ。
………それより……レキさんがダークハーフって……本当……なの………?」

「うん、本当よ」
あたしの言葉にジュリーは口に手をあてて座り込む。

「お前達は思い違いをしている」
レキは手を広げて笑う。
「私に掛けられた封印は女神の力を借りた、つまりは神術によるものだった。
魔族に解けるはずがないだろう? それが出来るのはその力と同質の力を持つ者。
君達が敬愛する創世主リディアティールの力を受け継いだ人間だけだよ」

騎士達に動揺が走る。
「それにこの瞳も、私の魂と力を宿した時に変化したのだ。
ダークハーフが封印を解くのではなく、封印を解いた者がダークハーフになるが正しいんだよ」

「な、何故に我々の前に姿を現したのだ? そんな戯言を言うためでは無かろう!?」
「忠告を一つ」
レキが人差し指を立てる仕草にびっくりする騎士達。
すっかりダークハーフを恐れている模様。
情けないなぁ。
「今の仮初の体は人でも、私は魔族だ。
君達の国は私の同胞を根絶やしにするつもりらしいが……止めてくれないか?」

いきなりそんなことを言われた騎士達は戸惑いを隠せない。
そりゃそうだ
「……貴様は何を考えているのだ!?」
「忠告と言ったはずだ。このままだと魔族は君達の国に牙を向く。
そんなのは、私の望むところではないからな」
その言葉に騎士の一人が嘲笑を返す。
「魔族が束になろうと我々ウェルハーンに敵うはずがなかろう」
今、レキ一人に自分達はボロボロにやられかけてるのに、その自信はどこから来たのだろう?
「魔族の力を甘く見ない方がいいと思うけどな」
「先程の様に不意を突かれなければ、貴様などに負けはせん!」
その言葉に、レキは首を軽く竦めた。
「なら掛かってきてごらん。相手をしてあげよう」
「我々を愚弄するか!!」
腰の剣を抜いた騎士達は、じりじりとレキを包囲する様に動きだした。

 


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