「せ、セリアさん!助けに行かなくていいんですかっ!?」
いつの間に我に返ったのか、ジュリーがあたしの肩を揺さ振ってくる。
「大丈夫、大丈夫。あれっくらいの数なんて敵じゃないって。
だからあたしのマント引っ張るのやめて?」
「あ、ごめんなさい…」
「それより、ほら。レキの事なら心配しなくてもあのとーりだよ」
ジュリーはあたしの見てる方へ視線を移した。
「…凄い…!」
正面の相手の剣を受け流し、横から掛かってくる別の刄を弾き返す。
さらには、後ろに目が有るかの様に、背後からの攻撃も軽く避ける。
それでいて自分からは騎士達に一太刀も与えていないし、魔術も一切使っていない。
多分、相手は歴然とした力量の違いを目の当たりにしてるだろう。
「偉そうな事言ってたけど、全然当たらないな。じゃあ俺からも行くよ?」
「…くっ…」
攻撃に転じたレキは、あっと言う間に騎士達の剣を叩き落とした。
ありきたりな表現だけど、まるで舞う様な鮮やかな戦いっぷりだ。
「…何故我々を殺さぬ…。その技量があれば簡単であろう?」
一人の騎士が呻く様に言う。
「忠告に来たのに、何故殺さなきゃいけない?
君達は国へ戻って、私の言葉を王に伝えてもらわなくてはいけないんだ」
「…………」
かなり悔しそうな沈黙だ。
「もし、この忠告を無視するなら、君達の国はレントゥリアの二の舞になる」
その言葉に騎士達は動きを止めて、レキを睨み付けた。
「……セリアさん、たしかレントゥリアって、千年前にあった、三大国家の一つよね?」
「そう。で、たった一人の魔族にあっと言う間に滅ぼされたって国よ。
王族は王城ごと魔術で消されて、生き残ったのは城から離れていた末姫だけだったって」
ジュリーは何だか間違えて嫌いな物を食べた様な表情を浮かべた。
「それから、その魔族は魔王って呼ばれる様になったって伝承では言われているのよね」
「それがレキさん……なの?」
「そうよ」
ジュリーはあたしを見つめて躊躇う様に口を開いた。
「どうして………? 何故そこまで知ってて、あの人と一緒に居ることが出来るの?
恐ろしくはないの!?」
俯いてジュリーは話し続ける。
「………アタシは恐ろしい。
アタシも魔族だけど、アタシには…ううん、アタシの知っているどの魔族にも、
国を滅ぼすなんて力はないわ。
アタシ達は力が使えるから魔族なんて呼ばれているけど、ただの人間と変わらないのよ!」
「うん、あたしもそう思う。だから、恐くないよ」
戸惑う様な表情のジュリーの瞳を見つめてあたしは言葉を続けた。
「どんな血が流れてても、どんな力を持ってても、同じ人間だとあたしは思うの。
地位や身分なんか関係ない!
人と人とが向き合って話して、好きでも嫌いでもいいから、
その相手について何か感じるって事が人間関係の大事なとこでしょ?」
そこまで言ってあたしはちょっと照れる。
「と、まあ偉そうに言ってみたけど、あたしにはあたしの計画があって、
一緒に旅をしてるんだけどね。あははは」
そう照れ笑いをするあたしを、じっと見つめてジュリーは微笑んだ。
「………レキさんを愛してるんですね……」
「違う!!」
すぱっと否定するあたしを見て、ジュリーは不思議そうに首を傾げた。
「もちろん嫌いじゃないし、好きだとは思うけど、これは絶対に愛じゃないから!
むしろ、友情?」
あたしの言葉に何を誤解したのかジュリーはにっこりと笑う。
「図星を差されて照れてるんですね!」
「違ーうっ!!」
「分かってます。自分の気持ちを素直に言えない…複雑な乙女心ですね」
「……………もういいから勝手に言ってて……」
あたしが果てしなく精神的に疲れてる傍らで、ジュリーは何だか楽しそうだ。
さっきまでレキが恐いと怯えてたジュリーはどこに行ったのだろう?
「きゃ!?」
「どうかした……って、いつの間に!?」
あたし達が話を脱線してる合間に近づいたのだろう。
振り向いた時には囲まれ、ジュリーは口を塞がれていた。
口を塞がれたら魔術は使えない。
あたし一人でこれを何とか出来るのか?
こりゃ絶対ムリだよー!
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