DARK HALF7








こうなったら……。

「……騎士ともあろう者が人質?情けないわね」
「何っ!?」
あたしの皮肉に一人が反応する。
「ふふっ、だってそうじゃない。あたし達を人質にとって彼を牽制するって事は、
人質がいないと彼に勝てないって言ってるのと一緒じゃない!
これが名を馳せた天馬騎士団だなんて情けなさすぎて笑っちゃうわ!」

秘儀・騎士のプライドを逆手に取っちゃえ作戦!!
こんな事をプライドの高い騎士が言われたら『人質なんかいなくても我々は負けはしない!』って
なるはず!

「たしかに情けないかもしれないけど、一人で一小隊を倒す人が相手だからね。
君達には人質になってもらうよ」
あ、あらら?
予想外の反応だ。

「…その格好、あなた達って天馬騎士団の人?」
取り敢えず質問してみよう。
「私は天馬騎士団、団長サレナ・フォンド・ベルディットと申します」
だ、だんちょーさんですかぁ!?
「煙が見えたので来てみたんだが、まさかこんな事になっているとはね。
君達はあの男の仲間なんでしょう?」
「…………」
沈黙するあたしを見つめ、団長さんが手で合図をすると、騎士の一人があたしの腕を掴んだ。
この数相手だと逃げれない。
「はーなーしーなーさーい!」
仕方ないから、ムダだと思うけどじたばたともがいてみる。
「駄目。あんまり暴れたら痛い思いするよ?おとなしくしてて」
何だか調子の狂う人だなぁ。
団長さんを改めて見ると、紫の髪と碧の瞳をしている。
顔は、物語にでも出てくる女性の理想の騎士像を体現化した様な美形だ。
多分、まだ三十路にもなってないんじゃないかな?
きっと、歩いてたら擦れ違う女性の大半が見惚れるんだろうなぁ。
「皆、行くぞ」
団長さんの号令で騎士達が周りを包囲する様に動き始める。

「聞こえるか?そこの君。君の仲間は私の手の中にある。おとなしくしなさい!」
すうっと大きく息を吸って、レキに呼び掛けた団長さんだけど、
何だか微妙に迫力が感じられない脅し文句だなぁ。
て、ゆーかこんなんで本当に脅しになると、この人思ってるの?

「セリア?」
「ごめん。捕まっちゃった」
レキはあたしを見て困った様な顔をする。
「だ、団長!?」
レキと相対していた騎士達も、突然の援軍に驚いている様だ。
「団長?どれが?」
「私が天馬騎士団、団長サレナ・フォンド・ベルディットです」
「………ベルディット…」
ん?
団長さんの名前を聞いたレキの反応が何か変だった。
何がどうってわけじゃないけど…動揺してる?
「…懐かしい名前を聞いたな。私はレキュアール・セス・アザルフェル」
名乗り返すレキの顔を見て、団長さんは驚いた様に眉を動かした。
「へぇ、ダークハーフかぁ。そりゃ部下達が苦戦するわけだね」
「この程度じゃ相手にもならない」
平然と返した言葉に騎士達がざわっとどよめいた。
「この程度、ね。君、そんなに強いんだ。…なら、私は貴公に決闘を申し込もう!」
「だ、団長?何を!?」
「一対一で戦い、貴公が勝った場合は人質を解放し、私達はこの場を退こう」
「それで、あんたが勝ったら俺におとなしく捕まれって言うのか?」
「そうだ」
団長さんの言葉に、レキは面白がっているらしい。
顔が笑ってるよ…。
「ふーん。天馬騎士団の団長やってるくらいなんだから、あんた強いんだろ?」
「まあね。今のところ、私以上の腕を持つ者は天馬騎士団にはいないよ」
自身たっぷりですね。
あなた、謙遜って言葉知ってます?って言いたくなったけど、人質らしく我慢我慢。

「あんた面白いな。よし、その提案乗った!
俺の腕がどのくらいになってるか試したかったしな」
「皆、聞いた通りだ。これより彼等に手を出す事を禁じる!」
団長さんの言葉に騎士達は、一騎打ちの邪魔にならない様に少し離れた。
「本気を出させてもらうよ。手を抜いたら失礼だろうからね」
「望むところだ!」

二人は距離をおいて向かい合った。
お互いが剣を構えた途端に空気が変わる。
真剣な表情を浮かべ、レキは片手剣を右手に、団長さんは両手剣をそれぞれ構えたまま、
ぴくりとも動かない。
「…………」
「…………」
二人が構えてどのくらいになるのか。
実際には、そんなに経ってはないだろう。
けど、あたしの感覚では、かなり長い時が過ぎた様に感じる。
「……レキ…」
思わずあたしが呟いた瞬間、それを合図にしたかの様に、二人が動きだした。
瞬きの様な一瞬の合間に剣がぶつかり合う。
あたしには、早さはレキが、力は団長さんが勝っている様に見える。
「……くっ…!」
「……へぇ…」
激しい攻防の後、二人はまた距離をとる。
「……あんた強いなぁ」
「……君も結構強いな。でも、今ので分かったね。君は私には勝てないって」
「たしかに、今の俺には無理だな。やっぱりまだ経験不足かなぁ?」
レキは団長さんの言葉を聞いて、ちょっと悔しそうに呟く。
「負けを認めるかい?」
「嫌だね!」
「なら、きっちり勝負を付けようか!」
団長さんは改めて剣を構えた。
「分かりました。勝負を付けましょう。ですが、その前に…」
レキは剣を右手から左手に持ち替えて、微笑んだ。

「『俺』は右利きだけどな…『私』は左利きなんですよ」

レキが構えたのと同時に、団長さんが動きだした。
「……ふぇっ?」
次の瞬間、あたしは何が起きたか今一理解しきれずに、マヌケな声を洩らした。
えっーと…?
団長さんが動いて、剣戟の音が響き、それをあたしが聞いた時には、
団長さんの剣が手から離れて宙を飛んでいた。

「勝負ありましたね?」
「……そうだね、認める。私の負けだ」
あまりにも一瞬すぎて、何が起きたかあたしには理解しきれなかったけど、レキが勝ったらしい。
「ちゃんと、その二人を解放してくれますか?」
「約束だからね、分かってるよ」
団長さんが頷いて、あたし達を捕まえている騎士に合図を送る。
だけど、あたし達を捕らえた騎士は、動かなかった。
「……団長、私は納得出来ません。利き手ではない方で戦い、油断を誘う様なやり方なんて…」
その言葉を聞いた途端、団長さんの目が鋭くなった。
「ほう、じゃあ君は私が油断したから負けたと言いたいのか?
その言葉、私に対する侮辱と受け取ってかまわないな?」
「い、いいえ。決してそんなつもりでは…」
慌てて否定する騎士に、団長さんはまだ鋭い視線を向けている。
「私は油断などしてはいない。全力で挑み、そして敗れたのだ。分かったなら二人を解放するんだ」
「ですが、団長。本当によろしいのですか?
ダークハーフをみすみす逃がしたと、王がお知りになられたら、何と仰るか…」
「いいんだ。負けたのは私なのだから、責任は全て私がとる」
「…分かりました」
戒めを解かれて、やっと自由になったあたしとジュリーは、レキへ駆け寄った。

「レキ!」
「レキさーん!」
レキはあたし達を見て笑顔を浮かべた。
「怪我とかしてない?」
ジュリーは、レキの言葉に瞳を潤ませる。
「…迷惑掛けて、ごめんなさい…」
「ああ、大丈夫。迷惑なんかじゃないって。
それより、俺はセリアがジュリーに何か迷惑掛けてないかって方が心配で…」
「ちょっと、それどーゆー意味?」
「言葉通りの意味」
「それじゃあまるで、あたしがそこかしこで迷惑掛けてるみたいに聞こえるじゃない!」
「違うのか?」
「ふふふ、違うでしょー?」
「ははは、そうだっけー?」
なごやか(?)に笑うあたし達を見て、ジュリーも笑みを浮かべた。
ちょっと引きつった苦笑いに見えたのは、きっとあたしの気のせいだろう。
「さあ、皆、準備は出来たな。先に戻ってくれ」

「団長はどうなさるんですか?」
「私は少し用がある。すぐに追い付く、先に行くんだ」
「…分かりました」
天馬騎士団は団長さんを一人残し、去っていく。
あたしはそれを見て、少しほっとした。
いくらレキが強くても、騎士団の全員を相手にするのは辛いだろうからね。
「君、えっと…レキ君。少し話がしたいんだが、いいかい?」
団長さんはそう言うと、一頭の馬を引きながら、あたし達に近づいてきた。
「いいけど、何を話すんだ?」
「君に教えてほしい事がある」
「何を?」
「単刀直入に言わせてもらう…」
団長さんは、少し緊張した様な表情を浮かべ、口を開いた。

「…もう一人のダークハーフについてだ!」









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