DARK HALF9







その言葉に改めてレキの視線を辿ってみても木しか見えない。
………誰に向かって言ってるの?」

……気配を消したオレに気付くなんて、さすがだな」

「えっ?誰っ?何処っ!?」
あたし達の他に人影はないのに何処からともなく聞き覚えのない男の声が響く。

「あれだけ遠慮無くジロジロ見られてたら、俺だって気付くさ」
レキは肩を竦めて平然と言葉を返している。
あたし、さっぱり気付かなかったんですケド……。
しかも、まだ声の主の居場所すら分かんないし。
「ふぅん。ま、そこまで無能じゃなかったって事か……」
気付かなかった自分が無能って言われた気がするよ……
「さっきも言ったけど、出てきたらどうだ?」
「イヤだね。オレがあの御方から受けた命はもう果された。お前達に姿を見せる必要は無い」

「だったら早く帰ってしまえ!お前の声なんて耳障りだ、ロティック!」
新たに響いた声に振り向くと、白猫を抱いて頭にラミを乗せた小柄な人影が立っていた。
「お前、捨てられたくせにまだ首輪をしてるのか?
憐れだな。くくっ、睨むな睨むな、言われなくても消えてやるよ」
そのままレキが見ていた辺りを睨んでいたルカは、首に巻いたチョーカーに触れて、
力を抜く様に一つ息をついてあたし達の方へ歩いてきた。
あの態度から見て、あの声の主はいなくなったみたい。
ルカ、誰だか知ってるみたいだったけど……
必要なら話してくれるよね?

「ルカ、何でこんなとこにいるの?」
ルカは、短い黒髪と氷の様な淡青色の瞳の持ち主で、無表情をだと
どこか人間離れした中性的な雰囲気を醸し出す。
だけど、怒りを露にしているルカは、年相応に見えて可愛いとあたしは思う。
ま、そう思ってる事がバレたらさらに怒り出すんだろうけどね。
………何で、だと……?」
じろっと睨むルカにあたしは少し引きつった苦笑いを返してみた。
「待っていろと言ったのに、おとなしくする事も出来ずにほっつき歩く。
すぐ戻ると言い残して出たくせに日が暮れるまで帰らない。
その挙げ句、捜しにきた僕に『何でこんなとこにいるの?』だと………
レキ、セリア、お前達は僕を馬鹿にしてるのかっ!?」
……てへっ、ごめんね?」
可愛く謝ってみたのに、ルカの視線はさらに鋭くなってしまった。
もー、冗談が通じないんだから。
「ルカ、悪かった。すまない」
………これから、気をつけてくれればいい」
真顔で謝るレキに、ルカは少し怒りを収めたらしい。
そんなとこも可愛いと思う。
なんせ、あんな喋り方をしてるけど、ルカはまだ十二歳の女の子なのだ。
「ラミもソロンも二人を心配していたんだぞ。………勘違いするな。
僕は怒りはしたが、心配なんかしていないからな!」
まったく素直じゃないなー、って口に出したら絶対機嫌が悪くなるから
心の中で考えるだけにしておこうっと。

「ソロンもごめんね?」
「にゃーん」
名を呼ぶとルカの腕の中の白猫が鳴く。
この白猫もれっきとした仲間の一員だ。
実のとこ、ラミと同じく魔物の一種で、リュンクスの子供だ。

『リュンクス』
体毛は茶色、瞳は金色の猫の魔物。
鋭い爪を持ち、十匹程度の群れで狩りをして暮らす種族だ。
しかし、何故かソロンは白い。
だから多分、群れから捨てられたのだとレキが前に言っていた。
産まれたばかりであろう捨てられたソロンを、あたしがリュンクスって
気付かないで拾った縁で、今だに一緒に旅をしている。
言葉は喋れないけど、こっちの話す事はちゃんと理解している賢い子なのだ。

「ラミは寝ちゃってるね」
「日が暮れたからな。植物なんだ。仕方ない」

ラミは植物だけあって日が暮れたと同時に眠って、朝日が射した途端に起きる。
寝顔もとても愛らしいんだよねー。
「それより僕は、お前達が何をしでかしてたのかを聞きたい。
ここに来る途中に、見たかぎりしばらく使った形跡のない小屋を見つけたから、
今夜はそれを使わせてもらおう。話もそこで聞かせてもらうぞ。ついてこい」
そう言ってルカはすたすたと歩き出した。
「さあ、行くか」
「うん」
レキが差し出す手を取り、後を追って歩き出しながら、
あたしは少し気になって後ろを振り返ってみた。


さっきの謎の声の主に『あの御方』と呼ばれる存在。
声の主を知っているらしいルカ。
多分『あの御方』が誰なのか、あたしに予想がつくくらいだから、
レキにも解っていると思う。
解らないのは、『彼』が何をしたいのか、その目的。
……
ま、考えても仕方ないか!
それより、天馬騎士団に喧嘩を売ったって聞いて怒るルカを宥める方法を考えよう。

「セリア?」
足が止まってしまったあたしをレキが不思議そうに見ている。
「あ、なんでもない」
あたしはレキと手を繋いだまま、また歩き出した。
こうやって歩く道の先が、ジュリーや団長さん達の道とまた重なる事もあるかもしれない。
何が起こるか分からない、先が見えない道程だからこそ、こうやってレキと手を繋いで、
ずっと歩いていけたらいいなってあたしは思うのだ。

照れ臭いから絶対口には出さないけどね。











ED


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第一部、謎を多くのこしたまま完




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