深海定点観測






鴫教授の話を聞いただけで俺の肌にも寒イボが立つ。

「本当に…よくぞ止めて下さいました教授」
「いえいえ、人を思いやる心が有れば当然の行為をしたまでですよ。
あんなホラーかつスプラッタなモノを人に好き好んで見せようとは思いませんから」
苦笑いを浮かべながら小声で俺の耳元に囁く鴫教授。
心底、紳士な彼に感謝した俺だった。
が、(人を思いやる心が欠如した)木々那教授はゲンナリした表情の俺達を見つめ不思議そうに
首を傾げる。
「うにゅ?ど〜かしたの2人とも?」
「いや、何でもありませんよ木々那さん。何て言うか驚いて…精神的に疲労しただけで」
「そぅそぅ。エイリアン4部作を続けて見た後っていうか、
死霊のハラワタ・シリーズを見た後の疲労感って感じですね」
「はっはっは、ナイス例えです黒江君!」
「いや〜、学生時代ああいぅ映画を見た後は生肉とか見ただけで食欲減退しちゃいましたよ」
「ジョン・カーペンターって知ってます?私はあの人の映画の残虐シーンがどうにも苦手で…」
朗らかにグロい物体…名前だけは優美なオトヒメノハナガサ、について語り合う俺と鴫教授に
何をどう勘違いしたのか知らないが木々那教授は満面の笑みを浮かべ、ノートPCを操作し始める。
「あはっ☆そんなに気に入って貰えて嬉しいなぁ♪深海生物って毛嫌いする人多いんだよね、
キモいとか言っちゃってさ。じゃ続きまして、深海生物題二弾っ、提灯アンコウだよっ!
ジャジャ〜ん」
止めれっ!と止める間もなくPC画面一杯に広げられた提灯アンコウの画像に
またもやゲンナリした表情を浮かべる俺と鴫教授。 
詳しい描写は避ける・…が、一言で言うなら、深海生物って酷いのばっかりだ!
もぅいい、見たくないからとっととその画像を閉じろ。かなりストレートな表現で鴫教授に言われ、
渋々PCを引っ込める木々那教授。

「なんで皆、深海生物の良さがわかんないかなぁ」

ブツブツ呟きながらPCを仕舞い込む木々那教授。
「いや…だって正直に言いますけど、グロいです。
なんか、大きいし内臓丸出しみたいな感じだし、生き物ってより怪物みたいな感じがして」

「確かに地上の生物と比べると、ちょっと造型が個性的かもしれないけどぅ…」
「ちょっと個性的の一言で片付けますか、あの」
あの、スプラッタもどきを。
そう突っ込こもうとする俺を遮るかの様に、木々那教授は俺の顔をひたと見据た。
その双眸はいつものハイテンションな彼女からは考えられない程真摯な光を帯びていて、
俺は想わず口を閉ざしてしまう。
まぁ指紋跡のビッシリ付いた、汚い眼鏡レンズに気圧されたってのもあるんだけど…。

「あのねあのね、黒江チャン。
僕、国語はからっきし駄目だから何て言ったら良いか難しいんだけどね、
えっと…あっちから、深海生物から見たら僕達地上の人間含めて地上の哺乳類とか爬虫類とかって
絶対想像付かないよな形をしてると思うのね?
体毛とか生えてたり、足が生えてたり、エラ呼吸じゃなかったり」

「ま、まぁそうでしょうね。
鳥とか空飛びますし、奴等からしたら信じられない生き物なんでしょうね。
…魚類がそんな事を考えるのか甚だ疑問ではありますが」

「うっ…にゅ〜。あ、じゃあじゃあ黒江チャンと鴫教授は宇宙人って信じてる?好きっ?」

突然全く関係の無い質問をされて、訝し気に顔を見合わせる俺と鴫教授。

「私も昔、隕石や宇宙の鉱物には興味が有りましたから、
生命が宇宙に存在しても可笑しくは無いと思っています。
UFO等を作り出す高度な知能を持った宇宙人が居るなら、コンタクトを取ってみたいものだと
常々思っていますよ?」

「宇宙人なぁ〜。エイリアンとか『遊星からの物体X』のTHINGとかプレデターみたいな
おっかないのは勘弁ですけど、E.Tとか『スター・ウォーズ』のチューバッカとか、
良い奴なら好きかも」

「…黒江チャン、全部映画の宇宙人だよぅ」

「娯楽大作ばかりじゃなくて真面目な映画も見ないと脳細胞に悪いと思います、黒江君」

「そぉそぉ、もっとお馬鹿になっちゃうよっ?」

「――馬鹿。しかも、もっとって……」

そりゃあ、あんた達学者2人から見たら俺は馬鹿だろうけどさ。

憮然と黙り込む俺など全く気にせず、木々那教授は満足げに頷いた。

「じゃ、2人とも宇宙人は信じてるんだよねっ!?」


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