深海定点観測






 憮然と黙り込む俺など全く気にせず、木々那教授は満足げに頷いた。

 「じゃ、2人とも宇宙人は信じてるんだよねっ!?
 激らヴぃとまでは行かなくて、一応好きなんだよねっ?」

 「えぇ…」
 「…まぁ、ね」
 曖昧ながらも、肯定する俺と鴫教授。
 「…でも宇宙人が一体深海生物と何の関係が有るんですか木々那教授?」

 「流石は黒江チャン。鋭い質問なんだねっ!」
 いや、鋭いも何も…隣で鴫教授も同じ疑問を抱えていると思いますが。

木々那教授はふっと丙号の外、深海の暗闇を見つめる。


「あのね、人間の長い歴史で考えると宇宙って本格的に注目されだしたのはつい最近だと思うの。
確かにギリシャや中国、エジプトとかで星を眺めて吉凶を占ったり、
暦を作製したりってのは大昔から有ったよ?
でも、コペルニクスが地動説を唱えるまで…うにゅ、違うなぁ?
地動説を支持したガリレオ・ガリレイが宗教裁判に掛けられて、
それでも地球は動いているって呟いた後も
世間は地球がグルグル回る世界の中心だって暫くは信じてたの。
天動説がバリバリまかり通ってて、自分達が全ての基準だって信じて疑わなかったの」

木々那教授の言葉に、鴫教授は深々とため息をつく。

「…宗教的な問題もあるでしょうね。
コペルニクスを支持しつつ公言できなかった学者も多いと聞きますから。
あちらの国の方々は信心深いですし、教会に歯向かってまで発言しようとは
思わなかったんでしょう。
教会の教えは神がこの世を御造りになり〜云々でしたから、新しい価値観を持ち出されると
聖書が間違っているという事になって、神の神威が失われかねません。
バチカンがガリレオを宗教裁判に掛けた過ちを認めたのは、
つい4・5年前だったりしますからね。
もぅ地動説は世界の常識ですから、いつまでも強情張ってても仕方ないと思ったんでしょう」

「そんなに最近なんですか!?」

俺は思わず呆れた声を出してしまう。
ロケットが月まで行って、火星に基地を作ろうかって計画まであるご時世になってやっと!?

そんな俺の様子に、木々那教授は肩をすくめ苦笑いしてみせる。

「あのね、進化論を唱えたダーヴィンなんて今もまだ異端者扱いなんだよ黒江チャン。
人間の始祖はアダムさんとイブさんであって、猿なんかじゃないんだってさっ」

「はぁ…頑固っていうか、凄いですね」

呆れるを通り越し、むしろ俺は感心してしまう。
だって人間の起源はアウストラロピテスクとかクロマニョン人等、化石を見て行けば明白だろう。
まさか肋骨を一本折ったらソレが人間に成りましたぁ!
みたいな教義を延々と続けていく気じゃなかろうに……強情ここに極まれリ。


「別に宗教を自体を否定する気は無いんだけどね〜あ、話が物っ凄く逸れてるね!
閑話休題って感じ?」

そう言いつつ、木々那教授は不可解な動きをする。何か、こう箱を動かす様な…。

「木々那教授?一体何を…」

「あっちに置いといた話を、こっちに戻すってポーズに決まってるっしょ、黒江チャンっ!」

決まってない、決まってないよ!木々那教授。この人の言動は何でこうも意味不明なんだろう。

呆れるを通り越し、むしろ俺は感心…する訳は勿論無い。皆無である。


「で、先程の話が一体深海生物に何の関係が有るんですか……?」

鴫教授が困った様に木々那教授に問いかける。

「大有り、なんだよ鴫教授っ!」

にっこりと嬉しそうに破顔する彼女に、俺と鴫教授は再び怪訝な顔を見合わせるのだった。


何か段々かけ離れていってるような気がするんですけど……木々那教授?

 

 


    前へ  次へ



Home   Novel



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送