満月の夜の歌姫2


 

 

声を止めたあたしにポカリが差し出される。
短くお礼を言い、飲み干す。
冷たさが気持い。

周りを見ると初めより人が増えていた。
「いつもここで歌ってるんですかぁ?」
「いや……」
「ルナはね、満月の夜しか歌わないの。
だからルナ……ってうちらが勝手に名前つけただけなんだけどね」
常連の子があたしの代わりに説明してくれた。
あたしがこういうの面倒だと分かっているから。

「なんかカッコイイ〜! でもどうして満月の時だけなんですかぁ?」
「なんとなくだよ」
素っ気無く答え、ポカリを蓋を閉めた。

再びあたしが歌おうとすると、不審な動きをする子がいる。
カバンに手を突っ込んでゴソゴソと何かをし、そのままチャックを閉めようとしない。

「その中のモノ出してくんない?」
「えっ……?」
躊躇する子のカバンを奪い、カバンの中に手を突っ込む。
やっぱり、中にはテープレコーダー。
気分がシラケた。

「こんなことするのルール違反じゃない?」
冷たく女の子を睨む。
「だって、ルナいつもここにいるわけじゃないじゃん! 
もっといっぱいいっぱいルナの歌聴きたいよっ!」

……逆切れかよ。

回りの奴らも、そーだそーだ、と女の子に賛同する。

「もっと来てくれよ!」
「なんか家庭のジジョーってやつでもあんの?」
「満月の夜だけって格好つけてるんじゃねーよ」

ブチッ。
特に最後のセリフはムカついた。

「うるせーっ! そんなのあんたらの知ったことか!! 
あんたらのことだってあたしにはどーでもいいんだよ。
聴くのかよ、聴かねーのかよ!?」

シン、と静かになる。
あー、だけどだめだ。
あたしの方の気が乗らない。

「……やめた」

えーー、とブーイングが起こる。

「謝るからさ、そんなこと言わないでよー」
「あたしらあんたの歌が聴きたいんだよ、ね、歌ってよぉ」
「ずっとこの日を楽しみにしてたんだぜ。歌ってくれよ、ルナ」
「そーだよ。なんだったら金払うからさ」
財布を出す奴まで出てきた。

誰もそんなこと言ってないだろ。
マジ、お前らウザイよ。

「やだ」

と、帰ろうとするあたしの背中に手がかかった。
嫌々振り向くと、頭の中までチャラチャラと音をたてそうな軽薄野郎が立っていた。

……こうゆうタイプ嫌い。
あたしは顔を顰めた。

「歌上手いね。もう歌わないんだったら、俺と遊びに行かねぇ?」

あたしがテメーみたいなチャライ奴にホイホイ着いて行く様に見えるのか、ぁあ?

「行かない」
「そんなこと言わないでさ、行こうって。おごってやるからさぁ」

……やろぉ。
肩に手を回されて、グイグイ引っ張られる。
馴れ馴れしいんだよ!

「うせろ、カス!」
「なんだとぉ! スカしてんじゃねーよ、ブースッ」

ブスだとぉ?
女にブスは……死刑決定。

「テメーこそ、ノーミソの中身までチャラチャラさせてるんじゃねーよ。
マジ、うざいんだよっ! 少しは味噌詰めろ。
なんだったら、スーパーで白味噌でも赤味噌でも味付け味噌でも買って入れれば? 
少しはまともに頭が働くんじゃねーの?」

せせら笑いを浮かべると、周りの連中もプっと噴出す。

「調子にのってんじゃねーぞ。このアマ!」

……よしっ。
髪の毛を引っ張られた。瞬間、あたしの肘鉄が決まった。
そのまま足払いをして仰向けになったところで男の下半身に足を置く。
「このまま踏み潰してやろぉか? この腐れピーーー野郎!」
「うっ……あああ、い、痛い、痛いって!!」
「ルナ超かっこいい〜!」
「……女じゃねぇ」
「ぁあ?」
本気で潰してやろうかと足に力を入れようとした時、

「やめろよ。あんたの足が腐るぜ」

ひょいっとあたしの体が持ち上げられてしまった。
その隙にチャラ男に逃げられる。

あー、面白かったのにィ!

「放せよ! このスケベ!!」
「スケベって……そのセリフを言うには成長が足りねぇぞ」

「うるせーーー!」

あたしのパンチが決まった。

 

 

 


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